二年目の春・4

「うーん、こんなもんかな。」

さて夕食後少女達の帰った店では横島が一人厨房にて余った鰹をオイル漬けにして自家製のツナを作っていた。

朝には内臓で酒盗も作っていたりとしていて、オイル漬けは一日ほど寝かせれば味が染みて食べ頃になり酒盗は完成まで三週間ほどかかる。


「高校時代にこんくらい出来てればなぁ。」

ついでにぬか漬けを混ぜて新しい野菜を入れるとピクルスもそろそろ無くなるので新しい物を漬ける。

ちょうどよく漬かったナスのぬか漬けを丸かじりしながらの作業は少し行儀が悪いが、これがまた美味い。

こんなに簡単なら高校時代にでも出来たんじゃないかと思うものの、あの頃の自分にそんな余裕はなかったなと笑えてしまうのだから過ぎた時の長さを感じずには居られない。


「お疲れさまです。 軽く飲みます?」

時間的に店の看板はもう閉まっていたが明かりが付いていたことで近右衛門が姿を見せていた。

途中休憩を何度か入れたのだろうが朝から働いて夜の八時を過ぎた頃に帰る近右衛門に、木乃香が知ったらまた心配するだろうなと思いつつ表情を見てお酒と軽いつまみを出す。


「超君の件でいろいろ手を煩わせてすまんのう。」

「構いませんよ。 穏便に済んで何よりじゃないっすか。 どのみち止めて即ハッピーエンドにはなりませんって。」

しばし無言で酒を飲む近右衛門であるが、厨房の方が一段落した横島が付き合うように飲み始めると超鈴音の一件について口を開いていた。

あの一件はまだ終わったと言い切れないが大きな山を越えたのは確かである。

ただ近右衛門は超鈴音の一件に関して横島側に随分と負担をかけてることを少し気にしていた。

横島とすればほとんど土偶羅に丸投げしているので特に負担は感じてないが、手間をかけたことに変わりはなく近右衛門の立場からすれば詫びと労いの言葉をかけるのは必要であった。


「将来に禍根が残らねばいいがのう。」

「血を流したり力ずくで解決するよりは残らんと思いますけど。」

その超と葉加瀬のことだが、こちらも近右衛門の悩みの種でもあり今後に幾ばくかの不安は感じている。

今は大人しくしてるからいいが超も葉加瀬も自分達の敗北は認めても価値観ややり方を完全に否定した訳ではない。

しかも二人が知る歴史や技術は一歩間違えれば大変なことになるのは確かで、そんな彼女達を早ければ中学卒業の一年後には世の中に解き放つ結果になるかもしれないのだ。

正直なところ将来のことを考えると今からでも未来関連の記憶の消去をしたいのが魔法組織のトップとしての本音なのだろうが、高畑は二人の自主的な反省を諦めてなく近右衛門自身も教職に携わる者としては同様なのである。


「そう言えば未来に帰すんですか?」

「本人が望めばそれもいいかもしれんとは思うが……。」

結局どんな選択をしても今後も放置は出来ないは変わらなく、横島が超鈴音を未来に帰すのかと尋ねると近右衛門は渋い表情をして本人が望めば帰す方向で考えてると告げるがそう単純な問題ではない。

下手に未来に帰して再び未来からの介入がないとは言い切れないし、更に問題なのは居なくなる人よりも残る人だった。

高畑がこのまま再教育出来ればいいが、万が一失敗すれば大変なことになるだろう。

穏便に済んで良かったことは事実だが今後も当分は気を許すことなど出来なく悩むことになる。

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