二年目の春・4

同じ日、高畑は学校の生徒指導室にて超鈴音と葉加瀬と話をしていた。

茶々丸のボディの一件もあるし、せっかく収めた問題を再燃させない為にも二人との話し合いは早急に必要なのだ。

平日はなかなかゆっくりと時間が取れないこともあり、二人が事実上の謹慎をしてるならばと高畑自身も休日を返上して二人と向き合っている。

高畑は前回と同様にしばらくは二人の話を聞くことから始めていたが、詳しく聞くうちに判明したのは二人の計画がやはり未来の一方的な立場から見た歴史を元に考えられていたことだということだろう。


「客観的に見て君たちはやはりテロリストにしか思えない部分がある。 魔法世界に無関係な人びとを巻き込み犠牲にしようとしたところなんかは特にね。」

「何事にも勝者と敗者が生まれるネ。 勝者は明日を得て敗者は明日を失う。 無血革命などと言ったとこれで本質はさほど変わらないヨ。 どのみち魔法協会は歴史の渦に飲み込まれる可能性が高かったネ。」

彼らには彼らの言い分や主張があるようだが結局は世界の多数派に従うことを拒否した人びとであり、高畑が知る武力闘争を続けてるような過激な一派の考えと似たり寄ったりであった。

高畑自身は百パーセント否定するつもりは毛頭ないし共感する部分もあるが、こんな小さな子供にそんなことを教えさせようとする大人達を認める気はない。


「君はナギ達や僕の犠牲者なのかもしれない。 少数が世界を救うなんておとぎ話のような本当の英雄は現実の戦争では生まれてはいけなかったんだ。 僕達は世界の全ての人々が自ら考え立ち上がるチャンスを奪っただけなのかもしれない。」

ただ百年という途方もない未来の世界でもまだナギの子孫が戦場に駆り出され過去へと送られる根本的な原因は、ナギ達と自分にあったのかもしれないと高畑は思う。


おとぎ話のような英雄が世界を救ってくれた。

それは美談のように語り継がれていたのだろうし、事実ナギばかりか息子のネギも超鈴音の世界では魔法世界の為に尽力している。

だがその結果、ナギ達や高畑は人々が自分達の力で困難に立ち向かうチャンスを奪っただけなのかもしれないと考えてしまう。

しかも少数でも世界を変えられるという前例を作ってしまった為に、何もせずに少数派になった者達が手遅れになってから前例を信じてナギの子孫を利用するように過激になっていく。

正に負の連鎖に思えた。


「高畑先生……。」

この時の高畑は一言では言い表せないほど複雑そうな表情をしつつも超鈴音と葉加瀬をしっかりと見つめていた。

尊敬し家族同然の恩人の子孫の結末はあまりに悲しく憤りを感じてならない。

そしてそんな高畑の言葉と表情に流石の超鈴音も言葉を失う。


「前に話したがナギは僕の家族のようなものだったんだよ。 その子孫とこんな形で向き合うなんて本当に悲しい。」

赤き翼が家族ならば超鈴音は家族の孫や曾孫で親戚のようなものになる。

理屈でも道理でもなくただ目の前の現実と向き合い戦ったナギに与えられた結末がこれでは報われなさ過ぎると、あまりに理不尽な歴史に高畑は涙が溢れてしまいそうだった。



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