二年目の春・4

同じ頃茶々丸は庭に作った小さな花壇を眺めていた。

ようやく芽が出て育ち始めた花壇を見てるのは飽きないが、少し残念なのはボディが元の超鈴音製に戻ったため五感を感じれないことか。

僅か二日の肉体だったが世界の美しさを感じたし、水の冷たさに温泉の温かさも感じて食事の美味しさも今まででは感じたことがないほどの刺激だったのだ。

今まで茶々丸の刺激らしいものは魔力供給時の刺激のみだったが、それが日常の全てが刺激に変わったのだから茶々丸は早くも現状に物足りなさを感じている。


「ワガママは言えませんね。」

正直茶々丸としては昨日まで使った試作型のボディで構わないのだが、横島がより茶々丸に合わせたボディをと言ってくれる以上は従うしかない。

実は横島としては茶々丸専用ボディの完成まで昨日の試作型ボディのままにしても良かったのだが、茶々丸の存在はガイノイドとしてそれなりに魔法関係者には知られているので突然肉体にしか見えない身体になったという訳にはいかなく、それとなく根回しなり情報を流すなりして事前に騒ぎにならない準備は必要だった。

加えて茶々丸の生みの親である超鈴音と葉加瀬にも事前になんらかの情報を伝えねば騒ぐのが目に見えている。

横島は二人に多少の疑問を持たれたりや秘密の存在を嗅ぎ付けられても別に驚異にはならないからと楽観的だが、二人の更正を担当する高畑からは流石に現状で彼女達を不用意に刺激するのは待ってほしいと言い出していた。

まあ茶々丸とすればしばらく我慢するくらいは構わないからと元のボディに戻ったのである。


「科学者の夢か、それとも人類の夢か。」

慣れ親しんだ身体なだけに特に不満はないが横島の有機ボディは生命の創造に限りなく近いのではと茶々丸は思う。

現実世界では哺乳類のクローン技術などが数年前に少し騒がれたばかりであり、それと比較すると有機ボディが超鈴音のアンドロイドと比べ物にならないほど厄介な技術なのは考えるまでもない。

幸いなのは基礎的な技術と技術レベルが全く桁違いで超鈴音ですら恐らく解析すら出来ないことか。

ただそれでも近右衛門が組織のトップとして客観的で冷静な判断をすれば、茶々丸の有機ボディ化は禁止してもおかしくはないのが現実だった。

茶々丸は近右衛門が困った表情をしながらも横島とエヴァに押しきられる姿が目に浮かぶような気がする。


「超……、葉加瀬……。」

結局茶々丸がこの世界で有機ボディで生きるには超と葉加瀬の様子次第となるが、茶々丸はあれほど努力し頑張っていた二人が夢も理想も失った今何を思うのだろうとそちらも気にしている。

願わくば超と葉加瀬ともいつか共に食卓を囲みたいと、そんな夢を抱きつつ今日という日を生きていた。



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