二年目の春・4

「うわ~、大きなかつおですね。」

「初鰹だしな。 旨そうなんで仕入れて来たんだよ。」

さて鰹を仕入れて店に戻った横島を出迎えたのどかは大きな鰹に少し驚く。

そもそも生の鰹を一本丸々と見ることはそうはないのだ。


「タタキにあら煮とあら汁でかつお定食が今日の日替わりメニューにしよう。 のどかちゃんも一匹捌いてみようか。」

「私に出来るでしょうか?」

「大丈夫だって。 ちゃんと教えるから。」

厨房では木乃香が店のメインと言えるケーキを作っていて忙しそうなので横島は先にのどかに鰹の捌き方から教え始める。

もちろんのどかも料理上手と言えるので普通の魚ならば捌いた経験があるものの鰹を捌いた経験はない。

少し不安そうなのどかに横島はまずは自分が捌いて見せながらコツなんかを教えていく。


「本当は藁で焼くと美味いらしいんだがなぁ。」

「流石に無理ですよ。」

途中横島が手を添えたりして包丁捌きを教えていくが、あまり密着するとのどかの顔がすぐに赤くなるので木乃香とさよには笑われていたが。

横島と一緒に居るようになりだいぶ男性に慣れた彼女だが、今度は横島を男性として意識し始めたので緊張したり顔を赤らめたりする。

尤も横島は相変わらずのどかが男性に慣れてないと勝手に解釈したままだったが。

ちなみに鰹のタタキに関しては藁で一気に焼くと美味いと言われるが、そもそも室内である厨房でそんな煙りの出る調理が出来るはずもなく断念している。

まあ庭があるのでそこならば出来なくもないが肝心の藁も手に入れるのも一苦労なので、以前使った鰻の焼き台を使って炭火で炙ることにしていた。


「魚は特に下処理と灰汁取りは慎重にな。 灰汁は取らなきゃならんがあんまりやり過ぎると旨みも取っちまうからからさ。」

木乃香の方も一段落すると鰹の捌き方と二人に鰹のあら煮とあら汁の方を教えていくが、ケーキの甘い匂いと魚の匂いが入り交じる厨房は少し微妙で換気扇を回しつつ調理していく。

鰹は少し癖がある魚なので調理には一工夫が必要でありあまり家庭ではやらないので、木乃香ものどかも本格的に習うのは初めてであり二人とも真剣だった。

厨房には他にさよとタマモも居るがさよは料理は難しいと簡単な手伝いは出来ないし、タマモは流石に本格的に教えるにはまだ早い。

ただタマモの場合は横島が調理する姿をよく見ているので調理過程や使う調味料の種類なんかは意外に覚えているが。


「朝飯は鰹のづけ丼なんてどうだ?」

「ええな。」

「うん! たべたい!!」

そして鰹の調理の合間には生の鰹を少し特製のタレで漬けていて、朝食の賄いにと鰹のづけ丼にするらしい。

新鮮で美味しい鰹だけにどんな食べ方でも絶品になるが、朝なだけにづけ丼で軽くと考えてるようだった。

タマモはすでにお腹が空いてるらしく漬け込まれてる鰹を時折見ながら、まだかなまだかなと待ち遠しそうにしているのを見ながら仕込みは続いていく。


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