二年目の春・4

「まいど。 休みなのに頑張るな。」

翌日は祭日であったが異空間アジトで二日も花見をしてゆっくりした木乃香とのどかは、夜明け前から店に来ていて仕込みを手伝っていた。

仕込みで無ければ学べないこともあるし経験を積むという意味では何度でもやって覚えねばならない。

横島は先程からタマモと仕入れに出掛けていて店にはさよと木乃香とのどかが残りケーキなどの仕込みをしていたが、この時ちょうど雪広グループの配達がやって来て注文した食材なんかをトラックから降ろしている。


「ごくろうさまです。」

ドライバーはすっかり顔見知りになっている二十代の男性であまり堅苦しい挨拶なんかはせずに、荷物を降ろして確認をしながら受け取りをする木乃香達に声をかけていた。

麻帆良と近隣の配達を担当する男性は麻帆良に住んでいて、当然ながら麻帆良では有名人である横島や木乃香のことは噂を込みでいろいろ知っている。

まあ噂に関しては手足どころか羽根まで生えてるものまであるが、木乃香自身は休日なんかには地道に仕込みから働いてることを知る男性はまだ中学生なのに頑張るなと常々感心していた。

もちろん一般的な中学生も部活動なんかで早朝から頑張る者も居るが、料理やスイーツの味が評判の店で実際に店を任されてる木乃香はやはり一般的な中学生とは違う訳で。


「ここのマスターいいよな。 可愛い子に囲まれて仕事するなんて。 俺も料理人になろっかな。 そしたら木乃香ちゃん達うちで働いてくれるか?」

「アハハ、引き抜きは断わりします。 ウチらは好きでここで働いてるんよ。」

一方横島に関しては世間の噂ほど滅茶苦茶ではないと知っている男性だが、客観的に見て羨ましいとは思うらしい。

まだ幼さの抜けきらない木乃香やのどかだが美少女であることは確かで、恋愛対象になるかならないかはともかく華のある楽しい職場であることに変わりはない。

運輸業の男性の職場は基本的に男がほとんどで、しかも配達は一人か二人なので華のある職場とは無縁なのだ。

正直羨ましいと思わずにはいられないのだろう。


「どうやったらマスターみたいにモテるんだろうなぁ。 今度聞いてみようかな。」

「横島さんも全然モテへんってよく嘆いてるわ。」

「それ日本中の男を敵に回す発言だぞ。」

とにかく周りには常に女性が居る横島を羨む者は多いが、横島が男性に嫌われるというか誤解される原因は横島が未だにモテないと口にすることも大きい。

木乃香達を始め親しい常連の女性陣はそんな横島を笑って受け止めて逆にからかったりするほどだが、よく知らない男性からは面白くない。

まあ横島をよく知る男性は横島が一種の変人なことや、中学生の少女達には手を出さずに見守ってることを知るので評価しているが。


「横島さんって細かいことによく気付きますよ。 髪を切ったり化粧をちょっと変えたりしても気付いてますし。 それに困ったり落ち込んだりしてたらよく声をかけてます。 そんなマメなところがお客さんたち喜んでますよ。」

ちょっとした笑い話のように横島のモテないという口癖を明かした木乃香に対して、のどかは横島のことを悪く思われたら大変だと横島のいいところを話していた。

横島自身は男性の評価なんか全く気にしないが大学生なんかと関わる機会の多いのどかは時々横島を知りもしないのに悪く言う人に会ったりして、そのほぼ全てが誤解なことが個人的に嫌だった。

そのせいか夕映共々横島の誤解や嘘っぱちな噂を否定しているのだが、悲しいかなのどか達が庇えば庇うほど面白くない男性がいるのも事実で横島のいい加減な噂は一向に減る様子がなかった。
84/100ページ
スキ