二年目の春・4

「まったく、なんでこうなるんだか。」

闇夜の露天風呂に女性と二人っきりというシチュエーションにも関わらず、飛びかからなくなった自分はもうあの頃のような若さはないんだなと横島は改めて実感する。

ここに令子が居たら飛びかからなくなったことを当然だと言うのか、それともらしくないと言うかは横島にも分からないが。


「貴様の過去に何があったのか知らないが。 女も貴様が思ってるほど綺麗でも神聖でもないのだ。 男と同じく欲にまみれ地を這いつくばり生きているのだからな。」

一方のエヴァは一見すると冷静に受け止めてるような横島の心の動揺を見抜いてるのか、まるで年上の年配者が諭すようにゆっくりと女について語り出す。

横島の中の女性の価値観は良くも悪くも特殊であり少しばかり神聖視してるようにも見えるらしい。


「そのくらい分かってるっつうの。」

そんなエヴァの指摘に横島は当然分かってると答えたし、実際横島は令子を見てきたので女も欲にまみれて生きているのは表面上は理解しているとも言える。


「いや、分かってない。」

ただ横島が理解しているつもりの女の欲や本性とエヴァが語るそれとでは次元がまったく違い、そもそも令子の金欲は一度は失った母と疎遠な父など複雑な家庭環境も影響しており自身の存在意義や価値を分かりやすく求めた結果でもあった。

極端な性格なので少々というかかなり行きすぎた部分もあったが。

それに対してエヴァが語るのはもっと本質的なものであり、極論を言えば横島はやはりルシオラの一件の影響が今も強く残っている。

危機的な状況だったこともあり何処までも気高くただ純粋に愛してくれた彼女の存在が横島の心には深く残っているし、現状の横島の力もアシュタロスの遺産もすべては彼女から受け継いだものが始まりなのだから横島は心の中では今もルシオラに愛されてるとの想いがあるのかもしれない。


「だいたい貴様は……。」

「あー!! マスターとエヴァちゃんが混浴してるー!!」

横島の過去に何があるのは今更でエヴァはそれでも今一歩横島に踏み込もうと言葉を紡ぎ始めるが、その時全てをぶち壊す声が響いた。


「ズルい! 私も入る!」

「どわっ!? 年頃の娘が目の前で脱ぐんじゃねえ! あっ、こらダメだって! エヴァちゃんも止めろよ!」

「入れてやれ。 別にいいではないか。」

現れたのは桜子だった。

幸運を呼び込む力が働いたのか深夜に目を覚ました彼女は横島とエヴァが布団に居ないことに気付き探しに来たのだが、結果的にはエヴァの話を邪魔してしまっている。

そんな桜子にエヴァは軽く舌打ちしたものの混浴するなら私もと目の前で浴衣を脱ぎ下着まで脱いでしまった桜子と動揺する横島を見て、これはこれでいいかと桜子を止めようとする横島を無視して冷酒を飲む。


「だー!! 抱きつくのも禁止だ!」

「えー!? なんで?」

「なんでも!!」

結局横島はかつての自分ならば血の涙を流して喜ぶような状況になるも、出来るのは理性と煩悩の狭間で狼狽えるだけだった。

ただ狼狽え止めてはいたが桜子の体はしっかりと見ており記憶に焼き付けたのはやはり横島が横島だからであろう。



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