二年目の春・4

「ムッ!? ムムッ!?」

同じ異空間アジト内でも人間が出入りすることを前提としたハワイ諸島と違い、ここに居るハニワ兵達は完全に自分達の趣味で作った温泉宿になる。

まさか横島と人間達が来るなど思いもしない彼らはハラハラドキドキしながら一行が食べるのを見守っていたが、真っ先に食べた桜子が真剣な表情になり意味深な声を上げると一同に緊張感が走った。


「このお魚凄く美味しい!!」

「あら、本当ね。」

どうしよどうしよと慌てふためくハニワ兵も中には居たが真剣だった桜子の表情が突如崩れるとぽかーんとしてしまう。

どうやら桜子は少し小降りな鮎の塩焼きの美味しさに感動していただけのようである。

横島の影響もありすっかり舌の肥えている少女達も流石に天然物の鮎は初めてな者が多く、柔らかく頭から食べれるその味は麻帆良ではなかなか食べれる物ではない。

はらわたの苦味が苦手な少女も中には居るものの、身の美味しさは格別で桜子なんかは頭から丸かじりしてお代わりを要求したほどだ。


「こっちは天然のきのこと山菜の鍋や。」

「これどちらも新鮮ですわ。 なんて贅沢な……。」

舟盛りはマグロやイカなど付近で取れた海の幸だったが後は全て山の幸が中心であり、しかも本来は秋に取れる天然物のきのこと春に取れる天然物の山菜を新鮮なまま使った鍋物は外の世界では絶対に味わえない物だったりする。

何より白いご飯に合うおかずばかりで少し前まで買い食いしたりしていた少女達も残さず食べたほどだった。


「ねえハニワさん達、廊下で踊ってるわよ? なんで?」

「みんなが喜んで食べてるのが嬉しいみたいだな。」

ちなみにハニワ兵達が覗いてる姿は当然少女達にもすぐにバレてしまい、いつの間にか廊下で小躍りしているハニワ兵を明日菜は不思議そうに眺めていた。

ただなんとなくうれしそうなのは見れば分かるので悪い気はしないが、突然雲の上の存在がやって来たハニワ兵達の激動のドラマは残念ながら理解出来なかったようだ。


「お爺ちゃんも来れば良かったのに~。 ウチの実家山奥にあるからお爺ちゃん山の幸とか好きなんや。」

「今度ここで学園長先生達も呼んでみんなで宴会しよっか!?」

「賛成!!」

その後満足げな横島と一行にハニワ兵達はホッとした様子で仕事に戻っていくが、木乃香は今回のお花見に来なかった祖父近右衛門のことを思い出していた。

実は最初は近右衛門達大人組も誘ったのだが、たまにはみんなで行ってくるといいと遠慮したのか来なかったのだ。

後は若い者達でという訳ではないが少女達も横島も保護者が居れば多少なりとも気を使うだろうと気を利かせたらしい。

ただ近右衛門は京都の山奥の生まれなので山の幸など好きだし山自体も好きなようである。

そして木乃香の何気ない一言で今度はこの旅館で宴会をしようと少女達は盛り上がっていく。

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