二年目の春・4

「あらあら、本当に山の中ね。」

旅館から迎えにと桜公園まで来たマイクロバスに乗って今夜の宿に向かう一行だが、まるでヘリのように地上数メートル上を飛ぶバスからの景色もまた幻想的な光景で良かった。

そんな一行が三十分ほどで着いたのは本当に山の中にあるひなびた温泉宿だった。

山の谷間にひっそりとあるその旅館は渓流が宿の横を流れていて川の流れる音が聞こえる。

釣りや紅葉に新緑を楽しむのに最適な旅館だが山奥にあることとまだ新緑の季節にも届かないので今夜は空いていたらしい。


「ぽー!!」

「突然悪いな。」

まるで数百年の歴史があるような趣きのある旅館であるが、宿を営むハニワ兵達は突然横島達が泊まりに来ることになり天地がひっくり返ったように驚き慌ただしく準備をして出迎えていた。

ちなみに趣きがあるのはあえて趣きがある造りにしたからで実際には築十年も過ぎてない新しい旅館である。


「ここ宴会場じゃないのか?」

「そうだよ。 漫画とかの昔の修学旅行みたいで楽しいじゃん!」

どこから持ってきたのか旅館内には昭和半ばのレトロなポスターが貼られていたり、最近は全く見なくなったピンク電話があったりと少女達には逆に新鮮な物も多い。

そのまま宿のハニワ兵達に案内された一行だが総勢十八名も居る団体客なので、どうも部屋は宴会場を一部屋借りたらしくそこに布団を並べてみんなで寝ることになるようだった。


「俺はいいけど、さやかさんは流石に……。」

「私は構わないわよ。 お祖父様がアウトドア好きなのでキャンプとかよく行くもの。」

「ああ、なるほど。」

横島自身は何処でも寝れるし少女達もほとんどが昨年一度は横島宅で雑魚寝した経験もあるので大丈夫だろうとは思うが、流石に雪広家の長女はそんな経験もないだろうし別室が必要ではと気遣うがやはり雪広家は端から見るほど世間知らずではないらしい。

祖父である清十郎が相変わらずの庶民的な趣味の持ち主なので、あちこち連れ歩き結構いろいろ経験してるようである。


「ひろいおへやだね。」

「そうね。 今日はここでみんなで寝るみたいよ。」

「やったー!」

なおみんなで同じ部屋で寝ることに一番喜んだのはやはりタマモであり、広い部屋をパタパタと走り回っては喜びを表すような踊りを踊っていた。

いつも泊まっているホテルも部屋自体は広めなのだが、やはりみんなで一緒にというのがポイントなのだろう。


「ごはん♪ ごはん♪ ごはん♪」

そして部屋で一休みしていると時間もすでに頃合いなのですぐに夕食となるが、桜子なんかはなんだかんだと結構食べてるにも関わらず夕食が待ちきれない様子である。

夕食は旅館らしく和食のお膳であったが舟盛りのお刺身があり、少女達ばかりか横島をも驚かせることになる。

ただ自分達の料理が喜んで貰えるのか不安なのか部屋の入口では何体ものハニワ兵がこっそり覗き様子を伺っていたが。


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