二年目の春・4

そのまま春の日本列島を北上する列車は、途中大正時代のような煉瓦造りの街並みがある横浜地区や江戸時代のような街並みがある東京地区を走っている。


「お城があるね。」

「時代劇のような街もあるわ。」

中でも東京地区の江戸城らしき城は周囲にあまり高層の建物がないことからよく目立っていて、観光の目玉なのか列車も高度を下げて城の近くを横切っていた。

景色だけ見ると本当にその時代に来たかのように思えるほど街並みは徹底していて、ここには車やバスのような物さえ走ってない。


「随分とまあ本格的に作ったなぁ。」

高度を下げたからか地上のハニワ兵達も窓から見えるくらいになっていて、タマモや桜子は地上のハニワ兵達に手を振って居たりする。

一方この異空間アジトの主たる横島は一応開発許可は最初に与えた記憶はうっすらとあるし噂程度にハニワ兵達がいろんな街を作っているのは知っているが、実際に現地を見るとテーマパークのような小さな街ではなくガチで住人が住むような本格的な街に驚いていた。

ただまあ驚きという意味では高畑や刀子の方が大きいし、実は横島のことや異空間アジトのことを未だにきちんと聞いてない刹那も驚きの余り固まっている。

もちろん刹那も最近は横島に近い少女達と一緒に居る時間が増えたので、横島が異世界から来たことやアシュタロスの遺産として異空間アジトを持ってることはなんとなく聞いているが。

しかし横島との付き合いが長く若さ故に順応性が高い少女達と違い、大人と刹那は今しばらく驚きが続くのかもしれない。


「あっ、さくらだ!」

そして関東を過ぎて東北に入ると山などを中心に桜の花が見られるようになる。

まさに桜前線を追うように北上していくだけに徐々に桜の花を見ることが増えていき、横浜や東京もとい江戸ほど大きな街はないが小さな村や町は意外にあり田んぼや畑なんかも結構見られた。


「うわ~。」

「凄いわね。」

そんなSLの旅も終点に近付くと見えてきたのは一面に広がると言っても過言ではないほど桜の花が咲き乱れた景色だった。

特に上空から見るその景色は圧巻で決して他ではお目にかかれないモノになる。

列車はゆっくりとそんな桜を見せるように上空を旋回しながら地上に降りていくが、地上の線路と駅もまた桜の花に囲まれていた。

まるで桜のトンネルに入るように地上に降りた列車は桜の花に触れそうなほど間近に桜が見れる中を通り駅に到着する。


「凄い数のハニワさん達だね。」

「ちょうど見頃だもんね。」

駅は昔ながらの木造建築のような質素な駅だった。

北東北桜公園駅と駅名もそのままであり、駅の中は元より駅を出ると同じくお花見に来たらしいハニワ兵達で溢れている。

もちろんハニワ兵はお花見客ばかりではなく食べ物の屋台や土産物を売ってるハニワ兵も多いし、混雑を整理する警備のハニワ兵も居る。

トイレに荷物預かり所にゴミ置き場があったりと一見見た感じは普通の観光地と大差ない。

本当にハニワの国にでも紛れ込んだような一行だが、人間の居ない世界故に一行はハニワ兵達の注目を一身に集めてしまう。


「ポー!」

それはハニワ兵達にとってはお祭り会場に突然皇室の方が現れたようなものだったのかもしれないが、警備のハニワ兵が特別な対応は要らないとその場を納めるとハニワ兵達は元の賑やかさに戻り自分達の好きなようにお花見を楽しんだり仕事をしたりする。

これが人間というか日本人ならばそう割り切れるものではないが、ハニワ兵達は良くも悪くも横島の影響を受けてるのか本当に横島達一行を特別扱いせずに楽しんでいた。

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