二年目の春・4

一方茶々丸は賑やかな車内の雰囲気を感じながらも生まれて初めての食事をしようとしていた。

特にタマモは茶々丸が食べるのを目を見開いてじっと見ていて今か今かと待ちわびた様子だ。

昨夜有機ボディに変えて以降、茶々丸はまだ水しか飲んでないがその水の美味さに感激してもいる。


「食わなきゃ元気でないぞ。 その有機ボディは普通に食事をエネルギー源にしてるからな。」

この日茶々丸が初めての食事にと選んだのは幕の内弁当だった。

毎日エヴァの食事を作り昨年の麻帆良祭では横島と一緒に調理もした彼女だがその味を自ら知ることは出来なかった。

最近はエヴァが横島達と共に夕食を取るので茶々丸が給仕を勤めたりしていたが、茶々丸はみんなが食べる姿をずっと見ていて何より白いご飯が食べてみたかったという理由から幕の内弁当にしている。


「これが米の味……。」

いつの間にかタマモに続き周りの少女達ばかりか同じ車両に乗り合わせたハニワ兵達まで注目を集めてしまい、茶々丸自身は些か恥ずかしそうにするもお箸を持ち俵型に成形されたご飯を一口分だけ口に運ぶ。

数粒だけ付いたゴマの風味が微かに広がるが、それ以上に圧倒的なのは白米の甘みと味わいであろう。

それは様々な情報で得ていた食べ物の味とは全く違うと感じ言葉では言い表せない感動を茶々丸に与えている。


「ごはんはみんなでたべるのがいちばんだね!」

そんな茶々丸の様子に見守っていた友人達やハニワ兵達は我がことのように喜び、特にタマモはみんなでご飯を食べるという願いが叶ったからか満足げにうんうんと頷き自身も弁当を頬張る。

正直ガイノイドというものやロボットなんてのすら理解してないタマモは、本能的というか直感的に茶々丸を生き物だと分類してるに過ぎない。

従ってタマモとしては生きてる以上は一緒にご飯を食べるのが当然だとすら思っていると言ってもいい。

もしかするとタマモと少女達は奇跡の目撃者となったのかもしれないが、その価値に気付いた者は僅かしか居ない。

まあ奇跡の結晶とも言える異空間アジトと奇跡に愛され過ぎているような数奇な運命を持つ横島の元に居れば、この程度の奇跡はよくあることではあるが。


「ねえねえ、茶々丸さんも太らないの?」

「いや今の茶々丸ちゃんの身体は食い過ぎれば太るな。 特に制限かけてないし。 ただ一日や二日で早々体重は増えんと思うが。」

ちなみに桜子が少し羨ましそうに茶々丸も横島やさよのように太らないのかと尋ねるも、横島がそれを否定して太ると告げると茶々丸の箸がピクッと止まりしばし考え込むことになる。

美味しい白米に続きおかずも一品一品味わって衝撃を受けていたが、横島の言葉に一瞬で太った自分を想像してしまったらしい。


「生きるということは苦難の連続なのですね。」

この時茶々丸は生まれて初めて我慢する辛さを知り生身の身体で生きる大変さを実感していた。

だがまだ食べる素晴らしさに目覚めたばかりの茶々丸では我慢は出来なかったらしく、弁当をペロリと平らげてしまった後でこれからは我慢が必要なのだと真顔で決意することになる。



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