麻帆良祭への道

木乃香達と別れ帰宅した横島は、店の厨房で麻帆良祭のメニューの試作を始めていた

一応帰宅してすぐに店を開けたのだが夜はあまり客が来ず暇だったのである


「普通のメニューじゃインパクトがないしな~」

連日深夜のケーブルテレビは去年までの麻帆良祭を特集して放送してるので、横島は麻帆良祭のスケールの大きさを理解していた

ちょっとやそっとのメニューじゃ話題にもならない可能性が高いのだ

そのためいかにインパクトがあるメニューを考えるかでここ最近は頭を悩ませている


「いらっしゃいませ」

頭を悩ませつつも料理を始めて鍋からいい匂いがして来る頃、店には刀子が見知らぬ女性と二人でやって来た

一緒に来た女性は色黒のショートヘアの美女であり、普通の私服なので解りにくいが彼女はシスターシャークティである


「今日は何があるの?」

「今日はフレンチトーストなんっすよ。 夕飯にはちょっと向かないっすよね。 そうだ! 今試作してるカレーはどうっすか? 試作品なんでタダでいいっすよ」

すっかり常連になってる刀子に日替わりメニューを尋ねられた横島だが、あいにくこの日は夕飯に向かないメニューだった

そこで今作ってる試作品のカレーを彼女達に勧める


「そうね。 私はそれでいいわ」

「じゃあ私もそれをお願いします」

ただで試食しないかと言われて断るはずがなかった

刀子にシャークティもそれでいいと言うと横島は厨房に入っていく


「最近機嫌がいいって噂聞いたけど、こんな店に来てたのね」

横島の姿が見えなくなるとシャークティは刀子に意味ありげな笑みを見せていた

実は魔法関係者の間で最近刀子が妙に機嫌がいいと、ちょっとした噂になっていたのだ

まあ別に元々機嫌が悪かった訳ではないが、ピリピリした感じが若干柔らかくなったと噂していた者がいるらしい


「機嫌がいいって、何よそれ……」

シャークティの言葉に刀子はわずかに動揺をしながらも不満げな表情を見せる


「随分親しげだったじゃないの。 刀子のそんな表情久しぶりに見たわ」

「変な勘ぐりしないでよ。 この店安くて美味しいだけよ」

刀子の動揺にシャークティはクスクスと笑ってしまうが、実際刀子の横島に対する表情は仕事の時とは違い柔らかい印象が強かった

まあ刀子とていつも厳しい表情ではないが、仕事モードになると壁があるような微妙な雰囲気を出すことが多いのである



「お待たせしました。 フレンチカレーの試作品です」

二人の話は尽きることなく続くが、横島が厨房から姿を現すと流石に話が途切れていた

さてそんな横島が持って来たのは、滑らかなスープのようなカレーである

野菜や具も煮込んだというよりは皿に盛る直前に合わせたようであり、一見するとスープカレーにも見えていた


「いや~、麻帆良祭の試作メニューなんすけど、ちょうど誰かの意見が欲しかったんですよ。 感想お願いしますね」

いつものようにニコニコと説明する横島だが、慣れてる刀子はともかく始めて来たシャークティはポカーンとしてしまう

それは間違っても喫茶店で出るような料理ではなく、本格フレンチのメインのような料理だったのだから
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