二年目の春・4

「甘いと思うかね?」

「そうですね。 甘いと思います。 ですがこれで良かったのかもしれないとも思います。 過ぎたことばかり見ていても何も進みませんから。」

そのまま話し合いが終わると高畑は三人を連れて近衛邸を後にするが、残された近右衛門は疲れたのか大きく息を吐くともう一人残っている刀子に声をかける。

自身も感じてるようだが処分保留とはいえ事実上の再教育に舵を切ったことは近右衛門の甘さが出た結果だった。

元々超達に厳しめの刀子はもちろん甘いと感じていたが、同時にここで魔法協会にも極秘理のうちに厳罰に処すれば処分軽減を願い出た多くの人々ばかりか魔法協会の仲間達からも疑念を抱かれることは明らかである。

表向きとは別の処分にするにしてもほとぼりが冷めるまで待つか、表向きな活動に影響しない範囲の処分にしなくては近右衛門が疑われ良からぬ噂をされる可能性だってある。

困ったことに超は同じ大学部の学生や研究者には協力を惜しまなかったという事実があり、確かな成果として学園側に結果と利益をもたらしていた。

超と葉加瀬を追放や退学のような学園から引き離すような処分をすれば痛くもない腹を探られかねないほどに。

それに刀子も近右衛門も魔法協会員であると同時に学園の教師でもあるのだ。

再教育を優先させるのは当然だとも言えた。


「結局、横島君に頼まねばならなくなったのう。」

「結果がどうで彼女達は今後も危険です。 横島君の方ではどちらにしても監視は続けたかと思います。」

ただ近右衛門としては結局は今後も横島側の監視能力に頼らねばならない結末に自身の不甲斐なさを感じている。

例えこの先どれだけ真面目に更生しても彼女達から監視は死ぬまで外せないのが現実であり、近右衛門もそこで彼女達を信じて監視を外すほどお人好しではない。


「それに学園長がここで彼女達を処分するような人ならば、私や横島君は多分違う立場になってましたよ。」

「何事もままならならぬものじゃな。」

最終的には無難な甘く対応に終わってしまったが、近右衛門が超達のように損得勘定と計算ばかりで物事を考え進める人間ならば刀子や横島は現状ほど近右衛門を信頼し協力もしなかっただろう。

甘さと懐の深さは近右衛門の武器でもあり強みでもある。

それを分かるが故に刀子は今回の結末が落としどころかと思うようであった。



「ありがとうございました。」

「さっきも言ったが君たちのことは僕にも責任があるからね。 この程度の弁護しか出来なくてすまない。」

一方近衛邸をあとにした高畑と超達は、高畑の誘いで日曜の中等部校舎へと赴き少し話をすることにしていた。

そんな四人だが超達は葉加瀬も含めて中等部に到着早々に高畑に対して先程のお礼を口にしている。

処分がなくなった訳ではないが高畑の弁護が無ければ処分を先伸ばしにしたかも怪しいし、それに近右衛門が自分達を預けるほど信頼する人が弁護してくれるなど他では有り得なかった。

結果として超が考える以上の寛大な処分とも言える。


「君たちを弁護したのは僕だけじゃない。 大学部の人達も居るし茶々丸君も君たちのことを学園長に頼んでいた。 そういう人がたくさん居ることは忘れないで欲しい。」

一応体裁があるので生徒指導室で話を始めるが、高畑は今回の結末に影響した多くの人のことを真っ先に三人に伝えていた。

大学部の人々や茶々丸に高畑も含めて多くの弁護した者が居たからこその猶予であり、仮に大学部の弁護が無ければ処分は厳しくなっただろうし初めから超達の処分を気にしていた茶々丸が居なければ近右衛門達の行動が全く変わっていた可能性もゼロではない。

そして高畑が居なければ彼女達を再教育までしてくれる人は居なかったかもしれないのだ。


「君たちにはまず目の前の現実を知ることから教えたいと思う。 約束通り世界のこともナギ達のことも知りたければ教えるけどね。」

そんな高畑だが三人にまず必要なのは目の前の現実と自分達の足元をきちんと理解させることかと考えていたが、高畑自身もそこに気付いたのが昨年の後半なのだから人のことは言えないなと内心で苦笑いを浮かべていたが。

何はともあれこの世界では超鈴音の魔法公開から始まる世界救済計画は、人知れず阻止され二度と日の目を見ぬ歴史の闇へと消えていくことになる。

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