二年目の春・4

一方近右衛門は事前に聞いていた情報と違い肝が座ったとも言える超鈴音をただ一人顔色一つ変えずに見つめていた。

今回の近右衛門達の行動とハワイでの高畑とのやり取りなどで超が一皮剥けた結果の落ち着きかと考えるも、半分は計算ずくなのだろうと当たりを付ける。

何だかんだ言いつつ仲間であり親友の将来を守りたいのも事実であろうが、こういう覚悟と態度で挑めば最悪の結果は免れることが出来るだろうという駆け引きに見えてしまう。

少し冷たい言い方をすれば目の前で勝手に盛り上がる姿に興醒めしたような感覚を感じていた。


「では超君が三人分の罪を被るということでいいのか? 予め言っておくが処分と今後の対応は別になるぞ。 ワシは君のもたらした未来の歴史も知識も技術も安易に広める気はない。 君達には処分とは別に未来関連の記憶消去か第三者への伝達禁止をする誓約の魔法を受けてもらうことになる。」

「そんな!」

その結果本来ならば計画の内容などを一つ一つ確認しようと考えていた近右衛門も超の態度にそれは不要かと考え、単刀直入に処分とは別の最低限の処置を告げるもやはり噛みついたのは一番現実が見えてない葉加瀬だった。

彼女から見れば近右衛門の言葉は高畑が弁護すると約束した時の話と違う厳罰に思えるのだろうし、騙されたとすら思い始めている。


「私の知識は必要ないということカ?」

「全く必要ないとは言わん。 じゃが知識も技術も成功のみならず失敗や無駄の積み重ねが必要なんじゃよ。 天才と呼ばれる君に理解出きるかは分からんがな。 正直ワシは現状でもやり過ぎだと思っておる。 それと今回は表に出なかったから良かったがあのロボット兵器は君の魔法公開と同じくらい厄介なものなのだぞ。」

あからさまに不満そうな葉加瀬だが近右衛門は彼女の処遇は超鈴音の処遇な片付いてからにしようと考えて超と話を進めていく。

正直なところまだ超の方が話が出来ることは近右衛門にとって幸いだった。


「私の研究室と拠点がどうなったかは教えてくれるのカ?」

「研究室は未来関連の情報は消しただけじゃが、拠点にあった物は全て然るべき場所に移している。」

そのまま近右衛門と超の二人は静かに淡々と話を続けていき双方とも着地点を探していくことになる。

葉加瀬は理解してないが超は現時点でも近右衛門の恩情が十二分にあることを理解していて、未来関連の情報の秘匿に関しては放置出来ないのは彼女自身が一番理解していた。

超と葉加瀬個人が研究する可能性を残したことが近右衛門のギリギリの妥協点であり、正直それでも過分な対応だと超ですら思う。


「魔法世界の問題はどうするネ?」

「現状では手の打ちようがないのう。 下手に首を突っ込めば連合帝国双方を敵に回す上に秘密結社まで相手にせねばならんのじゃ。 君は高畑君がこの数年どれだけ苦労しとるのか理解しとらんようじゃ。」

超鈴音は考えに考え迷っていた。

近右衛門が未来知識を危険視していてあまりあてにしてないのは少し予想外だったのだ。

葉加瀬と五月のこの先と自らのこの先をどうするのか、そして滅びゆく魔法世界を自分はどうすればいいのか。

全てこの場で決めねばならない。


「学園長、僕に時間を頂けませんか? 彼女達のことは一重に彼女達としっかりと向き合わなかった僕に責任があります。 彼女達とはしっかり話をしてみたいのです。」

迷いからか超の言葉が止まると部屋は沈黙に包まれるが、ここで口を開いたのは弁護すると言っていたのにずっと無言だった高畑である。


「……よかろう。 表の処分とこの件は切り離すとする。 表の処分は嘆願の類いが多くてしばらくの謹慎が落とし処じゃろう。 君達の身柄は高畑君に預けることにする。」

実のところ近右衛門と高畑はこの席で処分を決定するか決めあぐねていた。

超が思ったよりも大人しくなった反面で葉加瀬が未だに不満を抱えたままであることを二人は危惧していたし、葉加瀬を再教育するには超鈴音の存在があった方がやりやすいとの思惑がある。

どのみち死刑や終身刑のような処分にでもしない以上はいずれは世の中に出さねばならないが、その為には未来情報の秘匿は当然として他にもきちんとした情報と価値観からの再教育が必要になるのだ。

超鈴音を近右衛門達である程度でもコントロール出来そうならば、五月は必要ないかもしれないが超と葉加瀬の再教育をしながらしばらく様子を見ることにしようとこの話し合いの前に近右衛門と高畑で決めていたのである。

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