二年目の春・4

翌日の朝は早くも木乃香とのどかが自ら仕込みを手伝いに来ていた。

時間的には新聞配達の人達と変わらぬほど早朝なのだが、特に木乃香はだいぶ前から積極的に仕込みから手伝いに来ていて彼女の料理技術向上の一翼を担っている。

相変わらず料理人になりたいとかパティシエになりたいとか具体的な目標がある訳ではないが、前日には魔法料理を学びたいと言い出したようにやはり料理自体は好きであった。


「今日くらいはゆっくりすりゃいいのに。」

「あかんえ。 日々の積み重ねが大切なんや。」

尤も横島は修学旅行もあったし今日くらいはゆっくり休んで休日を満喫すればいいのにと、働き者の二人を不思議そうに見ていたが。

ただ木乃香は修学旅行期間中には料理する機会がなかったことから逆に料理したくてウズウズしていた部分もあり、横島がビックリするほどやる気をみなぎらせていた。


「どっちが先生か分かりませんね。」

そんなやる気をみなぎらせた木乃香と一見するとやる気に見えない横島の姿にのどかはクスクスと笑ってしまい、一般的な師弟関係とは真逆のようだと口にする。

基本的に横島は厳しさというモノを少なくとも少女達には見せることはなく、横島が厳しさの片鱗を見せたのは高畑や刀子を相手にした修行くらいであろう。

一時期料理修行をしていた宮脇伸二にでさえ厳しさを見せることはなく、怒鳴ることも叱ることもない指導方法は逆に怖かったと後にのどかは伸二から聞いた記憶がある。


「ほんと、みんな真面目だよなぁ。」

一方の横島は基本的に怠け者体質なのか自分とは違う木乃香達に真面目過ぎると苦笑いを浮かべていた。

人間とは基本的に自身や自身の経験を基準に物事を見る傾向にあるが、それは横島も同様で中学生にして真面目過ぎる少女達にはかつての自分と見比べて何とも言えない心境になるらしい。

実のところ横島という男は昔から才能だけは抜きん出ていたが、それを伸ばしたり発揮するように指導してくれる大人が誰も居ない少年期を過ごしている。

両親は有能で横島の才能に気づいてはいたが子育てというもので見ると結果的に失敗したと言えるし、才能がある分だけ癖が強かった横島を学校の教師も含めて誰も育てられなかったというのがあの高校時代に繋がっていた。

まあ本人の自己責任だと言えばそうかもしれないが結果的に横島の才能を育てたのが前世からの強い縁で出会った美神令子と出会って以降のGSや人外の者達なのだから、横島の教育や人を育てる価値観は微妙にというかかなり一方的な人とは違う。


「真面目かな?」

「普通やと思うわ。」

結局のところ根本的な価値観の違いは未だにあり横島は木乃香達を真面目だと感じる一方で、木乃香達はそれが普通で横島が変なのだと思っている。

流石に一年前のような失敗して夜逃げするというほどの危うさまでは感じてないが、放っておけばどっかでなにかやらかしそうなのは変わらないのだ。

しかし実のところ木乃香達は横島のそんな欠点を嫌ってはなく、何だかんだ言いつつも自分達の役割があると内心では喜んでる節もある。

母性本能をくすぐるという言葉が適切かは分からないが、正直これ以上横島が完璧だと自分達のやることが無くなるのではとすら思う者も居るのだ。

結果としてやる気が見えず不真面目にすら見える横島を木乃香とのどかは笑って見ているのが彼女達にとっては心地いいのかもしれない。


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