二年目の春・4

「手伝います。」

「あっ、ウチも。」

結局その後はそのまま修学旅行と超鈴音の話題で店は持ちきりとなり日暮れまで店は賑わっていて、夕方に差し掛かると横島は夕食の支度を始めてたがのどかと木乃香が手伝いをかってでていた。


「今日明日くらいはゆっくり休んでいいぞ。 何だかんだ言っても疲れたろ?」

「全然大丈夫や。」

流石に修学旅行から帰ってきたばかりのこの日は茶々丸も居ることからほとんど店の手伝いも必要なくゆっくりしていた木乃香達であるが、夕食の支度は本人達希望により手伝うことになる。

疲れがないと言えば嘘になるのかもしれないが、日頃から放課後や休日に働いてる少女達とすれば気にするほどではないようだった。

正直疲れよりは日常に帰ってきた実感を噛み締めてると言った方がよく、当たり前の日常の価値を楽しかった修学旅行から学んだ結果のようである。


「今日は雑炊なんですね。」

「美味しそうや。」

さてこの日の夕食は先に述べた通り雑炊なので朝から煮込んでいた鶏ガラスープをベースにした雑炊なので、とにかくスープが美味しそうな匂いが厨房に広まっていた。


「魔法料理をちょっとアレンジしてみたんだよ。」

日頃から本格的な料理をよく作る横島であっても鶏ガラを一から仕込むスープを作る機会は多くはないし、当然市販の鶏ガラスープの元を使って料理する時もある。

ただ魔法料理として作るにはやはり一から鶏ガラを仕込む方がよく、最近の横島は効果を抑えた魔法料理を時々試作しておりこれも魔法料理としてはあまり効果は高くない一品だった。

元々魔鈴めぐみが生み出した魔法料理は強力すぎる料理なので、生みの親である魔鈴自身もそうだが効果を適切に抑えることに気を使うほどなのだ。

まあ横島の場合は本来欧州料理を基本に考えた魔法料理を和食や中華に独自アレンジしてしまっているので、基本はともかく厳密には魔鈴のレシピから逸脱する料理も多々あるが。


「ウチ魔法料理覚えたいわ。」

「魔法料理をか? 出来なくはないだろうけど……。」

現時点で横島が得意なのは体の芯からゆっくりと疲れを癒してくれる魔法料理で、それは料理の味は当然として体自体が活性化するような感覚なのでマッサージや温泉に入った後のような爽快感もある。

この時いつも料理を習っている木乃香がいつか魔法料理を覚えたいと口にすると、横島は少し考え込む仕草をして木乃香と魔法料理について考え始めた。

魔法料理はどちらかといえば癒しやヒーリングなどの魔法の才能が必要であるが木乃香はその資質は言うまでもないだろう。


「うーん、いいんじゃないか? 流石にすぐには無理だろうけどな。 木乃香ちゃんならいずれ覚えられると思うぞ。」

修学旅行から帰ってくるなり突然魔法料理を覚えたいと言い出した木乃香に横島は驚いたのが本音だが、このまま人知れず消えていくよりはいいだろうといずれ木乃香には魔法料理を教えることもいいかと決断する。

一方の木乃香は今回の修学旅行を通してたくさんの想い出と自分を見つめ直す事が出来ていた。

何か重大な決断をするというほど覚悟がある訳ではないし美砂に言われた自身の気持ちと横島との今後の関係などまだまだ悩んでいることはあるが、一つ進めるとすればこの一年で成長したと思える料理に関してもっと学びたいということになる。

超鈴音や周囲の友人達など変わりゆく環境の中で木乃香もまた一つ大人への一歩を踏み出していた。


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