二年目の春・4

「なにつくってるの?」

「夕食の準備だよ。 みんな疲れて帰って来るかもしれないからな。」

一方この日横島は朝から寸胴鍋で何かを煮込んでいた。

クンクンと匂いを嗅ぎ中を見たがるタマモを抱えて見せてやるが、中身は野菜や鶏が入ってるだけで何かは分からない。

たまらず何か作ってるのかと尋ねたタマモだが、それは店のメニューではなく今夜の夕食であった。

ハワイを朝のうちに出発した一行は時差の関係でお昼頃には成田に到着して、そのまま学園のバスで麻帆良に戻って来るので夕食には来ることになっている。

まあ若い少女達が僅か四泊五日の修学旅行であからさまに疲れるとはあまり思わないが、馴れない土地での旅行に意外に体は疲れてるだろうと魔法料理の応用で疲労回復の効果のある雑炊でも作って夕食にしようと考えていた。


「じゃあ、ごちそうつくろう!」

「いやご馳走は向こうで食べてきただろうから、今日はあっさりめにな?」

ただタマモは何かある度にご馳走を作りパーティーをすることに慣れてるせいか、すぐにご馳走を作ってみんなでパーティーだと瞳を輝かせるも横島はちょっと苦笑いを浮かべてそれを止める。

タマモがご馳走を作って待ってると少女達も喜ぶし断ることはないとは思うが、今日くらいはあっさりした食事がいいだろうと思うのだ。


「あっ、おきゃくさんだ。」

珍しく横島にご馳走を否定されたタマモはキョトンとして腕組みしながら訳を考え込むが、幼いタマモが旅行での胃腸や精神的な疲れを理解するのは無理だった。

しばらくうんうんと唸っていたがお客さんが来た音がするとお客さんを出迎える為にフロアに走っていく。

ここ数日はエヴァ達が一緒だったので特に機嫌が悪かったり寂しさを訴えた訳ではないが、やはりみんなが帰ってくることが嬉しいようで今日は朝からいつもに増して元気いっぱいである。


「ほんと元気だなぁ。」

横島はそんなタマモに思わず笑みをこぼしつつも完全に少女達に頼りきった子育てに苦笑いも出てしまう。

無責任だなと自分でも思うが今更変えることは出来ないだろうなと理解もしていた。

タマモはすでに動物や妖怪や人間をごちゃ混ぜにしたような独自の価値観による家族像があり、誰が教えた訳でもなく自ら考えて家族を構築している。

端から見ればそんな子供の妄想とでも言うようなことを現実として出来ていて何故か上手くいっている。


「未来か。」

まあタマモと少女達の関係は横島も心配することがないほどだが問題というか横島が少し気になるのは、やはり少女達に超鈴音のことを話さなければならないことか。

横島とすれば知らせない方がいいのではと今でも思う部分もあるが、二年も一緒だった友人が訳もわからぬまま挫折して変わっていく姿を見て知らないままでいいと思うような少女達ではないだろう。

昔の横島ならば学校のクラスメートがどうなっても知ったことじゃないと楽観視していたかもしれないが。
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