二年目の春・4

「修学旅行もあと少しね。」

同じ頃美砂もまた珍しく一人で船上からの夕日を眺めながらちょっとばかり黄昏ていた。

いつの間にか当たり前になった日常から離れて見ると、普段は感じない新鮮さや楽しさや不便さや寂しさなどいろんな刺激に溢れている。

潮風に吹かれながら美砂はふと年末年始に帰省した際に小学校の頃に仲が良かった友人と会ったが、『それって図々しくない?』と言われたことを思い出してしまう。

中学生が喫茶店に入り浸っているのも変だし、いくら喫茶店のマスターがいい人でもろくにお金を使わない客にいい感情を抱いてる訳ないと言われてしまったのだ。

美砂としては横島という人を親しかった友人に知って欲しかっただけなのだが、結局友人は理解してくれなかった。


「元々はお父さんの会社の人がキッカケだっけ?」

毎日一緒に学校に通い遊んだ友人との開いた距離に美砂は寂しさを感じたが、一方で普通の中学生はこんな感じなんだと改めて感じさせられたことを思い出す。

そもそも一般家庭の美砂が麻帆良学園に通うキッカケは美砂の父の会社に居た麻帆良学園の先輩がキッカケである。

麻帆良大の大学院を卒業した人らしく美砂の父が先輩の昔話を何度となく聞いているうちにのめり込み、娘は麻帆良学園に入学させると決めたらしい。

正直美砂自身は近所の公立で良かったのだが、父は自身の経験としてあまり公立中学にいい思い出がないらしく先輩の話にのめり込んでしまったのが真相だった。

寮生活も学校外まで学校に縛られるようで当初はかなり嫌がり一年以上進路について話し合った結果、美砂が根負けしたように麻帆良学園に入学している。


「お父さん喜んでたわね。」

昨年の麻帆良カレーの全国展開では娘のクラスが作った料理が全国展開すると聞き美砂の父は手放しで喜んだようで、何処から手に入れたのか雪広グループのファミレスで麻帆良カレーを発売した当初に貼られていた宣伝用の非売品のポスターを父は部屋に貼るほどの喜びようだったのだ。

元々教育に熱心でなかった美砂の父だが何故か娘の学校にだけは拘りがあるようで、お盆や年末年始に帰省すると学校や麻帆良での生活を聞きたがった。

実は自分が麻帆良学園に通いたかっただけなのではと美砂は考えていたが、世間で聞くような全寮制の学校とは全く違ったし楽しかったのは事実だ。

この夏にみんなの家族を集めて旅行でもと話してる件についても美砂の父は乗り気で早くも有給を取ると宣言している。

横島の話をすると彼氏かと気になるらしく微妙な表情を見せるも、先に上げた会社の先輩の話に出てくる麻帆良人より麻帆良人らしい横島には悪い印象を抱いた様子はない。


「家族ね。」

実家の日常とも麻帆良の日常とも違う修学旅行に来た美砂は、その後も実家の家族と麻帆良で出来た家族について一人想いを馳せていく。

贅沢を言うつもりはないが今の日常は続いてほしいし、それには自分自身も甘えるばかりではダメだとこれからのことを冷静に考えていた。


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