二年目の春・4

「こやつはこやつで何がしたいんじゃ?」

一方この日近右衛門は土偶羅の分体こと芦優太郎を前に渡された報告書を見て困惑の表情を見せた。

それは高畑不在の麻帆良に現れる可能性があったフェイト・アーウェルンクスのここしばらくの報告書である。

麻帆良において高畑という存在は居るだけで抑止力として貢献しており高畑が居ない隙にと考えるのが普通の思考だが、フェイトはここ数日アメリカのラスベガスでカジノで遊んでいた。


「さあな。 元々そいつの行動からは目的意識や必死さのようなものは感じないからな。 それと高畑の件は知らないらしい。 現在の完全なる世界の情報収集能力はお世辞にもいいとは言えないからな。」

無論遊んでばかりではなく一応周囲の調査はしてるようだが、特に必要のない観光地を見て歩いたりもしていて近右衛門が困惑するのも無理はない。

麻帆良に現れない理由はどうやら高畑不在を知らないらしいが、裏を返せば麻帆良にあまり興味を抱いてないということでもある。

ただフェイトに関してはイマイチやる気や必死さは元々見えなく、完全なる世界の創造主を探すのに血眼になってるデュナミスとの態度や動きにかなり温度差があった。


「来ないに越したことはないが不気味じゃのう。」

報告書では時にはメガロメセンブリアの魔法使いに成り代わり人助けをしたり、逆に関西に潜入してやろうとしたような騒動も起こしていて行動が支離滅裂で理解出来ない。

共通してるのは戦闘は可能な限り避けて正体がバレると戦わずに逃げ出すことくらいか。


「よくわからないからどこも捕らえることが出来ないで居るというのが実情だな。」

メガロメセンブリア諜報部も姫御子か代わりとなる魔法世界の継承者を探す為にフェイトを追ってはいるが、逃げに徹して目的意識もあるかないか分からない行動をされてはお手上げなようであった。


「これはあくまでも推測だが、フェイト・アーウェルンクスは本心では主が見つかっても見つからなくてもどうでもいいのではないかと考えている。 どうも自分の存在の意味や生きてる意味を探してるようにも見えるからな。」

「生きてる意味か。」

「親が居て自然に生まれた人の子には理解出来ないかもしれないがな。」

ただ土偶羅はフェイトが必ずしも主の復活を百パーセント望んでる訳ではないのではと考えており、造られた存在の微妙な立場を推測している。

本来の歴史ではネギの影響で明日菜が見つかり創造主が見つかったが、普通に考えると何処に隠されてるか分からぬ子供や封印を広い世界で見つけるなど困難としか言いようがない。

ましてクルトや高畑が彼らを追い続けて居れば尚更捜索は難しくなるのだ。


「やはりこのまま放置すれば魔法世界の終わりに向かうという訳じゃな。」

「その可能性が高いだろうな。 ナギ・スプリングフィールドや超鈴音の歴史のその息子のように後先考えずに世界を救うという者でも現れない限りはな。 要は誰が血を流し誰が犠牲になるかだ。 超鈴音がそれを地球に求めたようにな。 それが世界の理というものだろう。」

完全なる世界も今やフェイトとデュナミスの二人にフェイトが拾った子供が数人しかおらず、デュナミスは自らの生存を世界に知られたくないからと動かない。

結果として地球と魔法世界の二つの世界をフェイト一人で捜索しているが見つかる方が奇跡であり、肝心のフェイトもやる気に疑問符がつく。

近右衛門は終わりに向かう世界はこんなものなのかと何とも言えない表情を浮かべるが、土偶羅は極論として魔法世界を救うには必ず犠牲が出ると告げて要はそれを誰にするかだと冷たい口調で言い切る。

無論魔法世界の消滅を免れるだけならば横島と土偶羅でも手はあるが、下手に魔法世界の延命をすると特別意識と至上主義の国であるメガロメセンブリアが得をするだけで後々麻帆良を初めとした地球側に悪影響が及ぶ可能性がやはり高いのだ。

とりあえず近右衛門は現状ではフェイトが日本に来ないことを祈るしか出来なかった。

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