二年目の春・4

さてお昼まで海水浴を楽しんだ少女達だが、午後は一転して豪華客船によるクルージングであった。


「修学旅行でクルージングって、あんまり聞かないわよね。」

「うちの修学旅行じゃハワイの目玉なんだけど。」

千五百人乗りの大きな船に乗り半日かけてハワイ近海をクルージングするディナー付きプランで、船からハワイの景色を楽しめ夕日や夜景も見れるといい麻帆良学園のハワイ修学旅行の目玉と言われるほどである。

船内では先日も見たフラダンスやポリネシアンショーなども見られ、豪華ディナーが付いてるハワイでも人気のクルージングだった。


「思ってたより揺れないね。」

「うわー、ワイキキが見えるよ!」

豪華客船によるクルージングなんて日本に居ても早々経験出来ることではないので、少女達はテンション高くはしゃいでる者が多い。


「タイタニックみたいだ!」

「ちょっと!? 縁起でもない船の名前出さないでよ!」

中学生の修学旅行にしては豪華過ぎるのではと一時期麻帆良でも物議を醸したこともあるが、修学旅行を企画した雪広グループによる子供達に夢を持つことを教えたいという想いから続けられている。

実際こんな機会でもなければ経験出来ない体験だということで生徒の評判はいい。


「タマちゃん喜びそうね。」

「そうですね。」

そして騒ぐ友人達を笑っていた明日菜とさよは風に吹かれながらハワイの景色を楽しんでいた。

バスやクジラ型潜水艇などの大きな乗り物が好きなタマモが大喜びしそうな豪華客船に、二人はタマモもいつか連れてきてあげたいと口にする。

島の形なんかは以前異空間アジトでクジラ型潜水艇ホエール君三号に乗った時に見た景色と同じだが、やはり建物や街の大きさは全く違う。

広い海に出て大自然を満喫するという意味では同じだが、そんな異空間アジトとの違いを探すのもまた楽しい。


「世界って本当に広いんですね。 わたし……こんなにしあわせでいいのかな?」

賑やかに騒いでいた友人達が近くから消えると、さよはふと表情を変えて明日菜に自身の中にある微かな不安をこぼしてしまう。


新鮮で刺激に溢れ楽しい日々。

だがほんの一年前までは終わりのない孤独な時を一人過ごしていたのだ。

自分は本当にこんな幸せな日々を送っていいのだろうかとさよは考えてしまったらしい。


「何言ってんのよ。 幽霊でも妖怪でもハニワでも関係ないじゃない。 そんなこと言ってるとタマちゃん怒るわよ。」

「そうですね。 ずっと一緒に居るって約束しちゃいましたから。」

楽しく充実した日々を過ごせば過ごすほど失うことが怖くなるのが人の心理なのかもしれないが、さよはそんな不安を僅かに抱えつつも一緒に話をして励ましてくれる友人が増えたことが何より嬉しかった。

そしてずっと一緒に居て将来はみんなでお店をやるんだとの夢を語る、小さな少女の元に帰る日が少し待ち遠しいさよであった。

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