二年目の春・4

「なんか人が増えて来たね。」

「人気の観光地ですから仕方ないと思うです。」

そんな少女達だがワイキキビーチは時間が過ぎるに従って人が増えていき、すぐに真夏の海水浴場のような混雑になってしまう。

のどかなんかはどうやら泳ぐばかりではなく、砂浜でゆっくり読書でもと考えていたらしいがとてもそんな雰囲気ではない。

今年に入り二度ほど行った異空間アジトの海では泳ぐばかりではなくビーチパラソル下でビーチチェアに寝転び海風と波の音をBGMにして読書をするのが好きなのどかであったが、少なくともワイキキビーチでは落ち着いて読書をという環境ではなかった。

まあ賑やかな雰囲気も嫌いではないがのどかの場合は元々ある人見知りと散々注意された防犯意識からか、知らない外人が少し怖いのであの環境が贅沢だったのだとここに来て改めて感じている。

ちなみに少女達は自動発動の結界魔法がある腕時計型通信機を防犯アイテムでもあると認識してるらしく、臆病なのどかや夕映は海に来ても時計型通信機を外してなかった。

実際には高畑もいるので不安という訳ではないが、これさえ着けておけば安心感があるのが本音らしい。


「ちず姉、さっきの人は知り合いなの?」

「ただのナンパよ。」

一方千鶴は少し休憩しようと海から上がると見知らぬ外人に声をかけられ気持ち不愉快そうな表情が見えることから、夏美は恐る恐る何事かと聞いたがただのナンパだと知りホッとする。

何も修学旅行の中学生をナンパしなくてもと思う夏美だが、視界に入った巨大な双子の山に男は寄ってくるんだろうなと他人事のように思う。


「最近麻帆良だと声を掛けられなくなったから少し油断してたわね。」

元々麻帆良では中学生とは見えぬ容姿と色気から高等部や大学部の男性にかなり人気があった千鶴だが、昨年の麻帆良祭で横島と報道部が自称ファンを名乗るストーカーを壊滅させた件と学園のクリスマスパーティで千鶴に露骨に声をかけた酔っぱらいをあやかと横島が潰して以降は周辺がかなり静かになったらしい。

まあ未だに狙ってる男も居るが千鶴が横島に好意があるのは木乃香や刀子同様周知の事実ともなっていて、そこに強引にアプローチをかけても先の男達の二の舞になるだろうとナンパと言えるアプローチは受けることがほとんどなくなっている。

実際男子高等部の一部では横島は木乃香や千鶴や刀子を始めとした店に出入りする女の子を喰いまくってる外道だとも噂されていて、ついでに怒らせると殺されるほど危ない男だとか変な噂になっていた。

無論そのまま信じてるアホはそんなに多くないが、麻帆良での横島は周囲に常に可愛い女の子が居るので嫉妬から根も葉もない噂が広まっている。


「ちず姉でも油断するんだ。」

夏美は日頃からしっかりしている千鶴でも油断するんだなと変な関心をしてしまうが、千鶴は笑って当然よと口にする。

正直大人っぽいとかしっかりしてるとか本当によく言われる千鶴だが、それが嬉しく感じることはなく逆にプレッシャーに感じるくらいなのだ。

胸や身体に視線を向けつつも内面をきちんと見て甘えさせてくれる横島に惹かれる訳は、そんな他の男達とのギャップも無関係ではないだろう。


「あの人と一緒に居るとついつい甘えちゃうのよね。」

思わず嬉しそうに油断した訳を語る千鶴にとって横島は好きな人であると同時に最大の理解者なんだろうなと改めて感じている夏美だが、横島の優しさは一種の麻薬のようなものにも端から見ると見えていた。

あんな男の人と比べられたら他の男はたまったもんじゃないだろうと考えてしまうのは、彼女が自分もどちらかと言えばそちら側だろうなと思うからだろう。

ただ千鶴が嬉しそうに語る表情を見て自分もいつかそんな恋愛をしたいとの夢を持つことになる。



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