二年目の春・3

「もう終わりにしませんか?」

一方ホテルにて計画の失敗の原因について話していく超鈴音達だが失敗を外的な要因が理由だと言いたげな超と葉加瀬に、ずっと無言だった五月が突如口を開くと二人は流石に驚きの表情を見せる。


「今さらかも知れませんが二人の計画は間違ってたんですよ。 この結果がそれを証明したとしか私には思えません。」

葉加瀬と五月に学園に従えと言った超自身であるが、自身は学園に従うとは言ってなく五月は超学園にまだ何かやろうとしていると見ていた。

そして葉加瀬もまた科学を過信してるのか打開策を考える辺り諦めてはいない。

しかし五月にはみんな精いっぱい生きてる現在を、来るか来ないか分からぬ未来を救うという名目で踏みにじろうとする親友達をこれ以上見てられなかった。


「五月。 歴史は勝者が造るモノネ。 そしてそこには善悪も正しいか間違いかも存在しないはずヨ。」

「それは時間を超えた者が口にしていい言葉ではありません。 遠い未来において結果としてしか歴史を知ることが出来ない人の言葉であり、貴女がそれを口にすればただ自分の罪を正当化するだけになります。」

この時五月は反旗を翻した茶々丸の気持ちが少し分かった気がした。

五月自身も以前から感じていたことではあるが、超鈴音が生きてるのは今も現代ではなく未来なのだと気付く。

自分に都合がいい理論と考えで動くその姿は、世界を救う英雄ではなく壊すテロリストでしかない。


「罪カ。 見解の違いだが仮に罪でも構わないネ。 私は世界の為ならば罪でも何でも重ねるヨ。 勝てば官軍負ければ賊軍。 どうせこのまま行けばあの未来が待ってるだけネ。」

「すでに歴史は全く違うじゃないですか。 超さんが待っていたネギ・スプリングフィールドという人は麻帆良に来ないですし、エヴァンジェリンさんは呪いから解放されてます。 それとも私に教えてくれた歴史は嘘だったんですか?」

そのまま穏やかな性格からか声を荒げることなく淡々と超に問い掛ける五月に、超は真正面から答えていくがここに来て価値観の違いがはっきりしてしまう。

元々五月は超と出会うまではただの料理好きな素人の子供でしかなかった。

木乃香が横島と出会い何故か料理人として驚異的な成長を遂げたように、歴史を知る超鈴音に導かれた五月は驚異的な成長を遂げて超包子を任されるほどになっている。

超は五月が料理人として成功するのを知っていた故に五月を仲間に引き込んだのだが、五月はそれを理解してもなお超に対して感謝してもしきれないほど感謝しているからこそ超に対し目の前の現実を見て欲しいと強く思う。


「もう超さんの知ってる歴史ではないんです。 木乃香さんも夕映さんも魔法使いなんてなりませんし、明日菜さんが戦いに身を投じることもないんです。 たった一人の人との出会いが運命を変える世界において未来は誰にも分からないんですよ。 私にはそれがよく分かります。」

五月自身は正直なところ横島達と特に親しい訳ではないが、だからこそ木乃香達が超鈴音の語る未来とは別の道を歩み始めたことにいち早く気付いていた。

まるで自分が超に料理を習ったように料理の楽しさと奥深さを学び成長していく木乃香や、横島と共にあることで社会と繋がり変わりゆく明日菜達を五月は冷静に見ている。

結果この世界の木乃香や夕映が立派な魔法使いや魔法探偵になることはないし、明日菜が戦いに身を投じ過去を甦らせることもないと五月は何故か確信を持って言い切れた。


「木乃香サンか。 そう言えばあの人を麻帆良に繋ぎ止めたのは彼女だったネ。 随分お得な買い物をしたヨ。 だがそれがイケないネ。 明日菜サンの過去が明らかにならねば魔法世界は滅ぶしかないのだヨ。」

実はこの世界の五月が超の計画に疑念を持つきっかけは随分早く木乃香達の変化がきっかけだった。

立派な魔法使いとなり世界屈指の治癒魔法の使い手となると言っていた木乃香が、横島の店で料理を学び成長していく姿を見た五月は歴史が必ずしも一つではないと悟ったのである。

それは五月には希望と見えたが超鈴音にはそれが絶望と恐怖に見えたようで、やはり二人は価値観も立場も違いすぎたのだろう。



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