二年目の春・3

この日刀子が夕食にと横島の店を訪れたのは近右衛門達がすでに食事を始めていた頃だった。


「おかえりー!」

タマモは刀子の姿を見ると食事を中断していつものように出迎えるが、刀子はこの日夕食に来ているメンバーを見て一瞬表情が強張る。

流石にエヴァ達には慣れているがそこに近右衛門達三人が揃うと迫力というか場の空気が違う。


「遅かったのう。 何か問題でもあったか?」

「いえ、帰りがけに生徒の悩みを少し聞いていて遅くなっただけです。」

思わず今日はこのまま帰ろうかと思ってしまう刀子だが、タマモが嬉しそうに出迎えるとそれも出来ずに空いてる席に座ることになった。

近右衛門はともかく清十郎と千鶴子は元々接点があるようでなく、異空間アジトに行った時など何度か顔を合わせてはいるものの少女達が居る場面だったので大人だけの席に同席するのは少しばかり緊張するらしい。

実際日本財界にその人ありと言われる二人は世界でも有名な日本人であり、二人に会いたいという人は国内外問わずいくらでも居る。

ただそれぞれ単独でも会うのですら大変な二人なのに揃って会える人間は本当に限られていた。

まあ厳格に言えば二人も一般市民に変わりはないので会いたくない人には会わなくていいだけであったが。


「葛葉君を見て思い出したが関西の財政状況は本当に酷いのう。 ある程度知ってはいたが末端に至れば最早借金をしてボランティアをしてるようなものではないか。」

「確かにあれでは見過ごせないわね。 貧すれば鈍するとも言うようにいつおかしくなるか分からないわ。 詠春君はよくやってるけど……。」

そんな刀子を交えて夕食の続きとなるが、清十郎は刀子を見て少し前から気になっていた関西の財政状況に言及する。

詠春と穂乃香を密かに支援していただけに関西の財政が火の車なのはある程度理解していたが、東西交流が始まり雪広と那波グループを筆頭に関東魔法協会の支援者達が関西との交流を始めると噂以上に危険な財政状況に雪広・那波両グループの魔法関係者が驚き緊急支援の必要性を上層部に提言していたのだ。


「私の実家はさほど立場もないので表の収入でやりくり出来てますが、幹部クラスは借金もかなりあると噂はあります。 末端に至っては義理で付き合ってる者も多く東西の経済格差が関西からすれば面白くない原因の一つと言えると思います。」

「その借金が問題なのよね。 一部は借金を外資に押さえられていて、背後にいる国家に関西の魔法技術が狙われてるわ。 すでに一部の技術は新たな借金と引き換えに流出しているもの。」

歴史と伝統からくる義理とプライドで維持してるような関西呪術協会の現状は想像以上に良くない。

刀子は東西両方に所属してるだけにその危うさを一番身近に感じていてそれを素直に話すが、千鶴子は幹部クラスが抱える借金について困ったように刀子ですら知らない裏事情を語る。

関東魔法協会は近右衛門の努力により財政状況は悪くはないが、魔法が秘匿された地球側の魔法協会のアキレス腱は財政なのだ。

まあ大抵の魔法協会は地元の国家かメガロメセンブリア辺りから財政支援を受けているが、関東のみならず関西も財政支援を受けてないというのが現状だった。

本来は魔法協会への国家の介入は禁止されているので財政支援も問題といえば問題なのだが、金がないと生きていけないのが現実であり名目を変えたり第三者を仲介して実際には財政支援が行われている。

関西に関しては第二次大戦以前は政府から財政支援を受けていた時期もあるが戦後は諸事情により受けてない。

近年では魔法技術の将来性から密かに支援をとの話が政府より東西双方にあったが、関東も関西も政府の介入を嫌い拒否しているというのが大筋の状況になる。

ただまあ借金に苦しみ魔法技術を流出させたり外部の人間を受け入れたりと、本来の歴史のフェイトの暗躍の原因の一つもお金だった。

近右衛門達と刀子は自分達があまり手を出せない関西の問題に頭を悩ませるが、横島とタマモとエヴァとチャチャゼロはマイペースに食事を楽しんでいた。



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