二年目の春・3

さて少女達が修学旅行二日目に行き二日目の夕食は店で食べることにしていたが、毎日十人以上も集まり和気あいあいと夕食を食べてるのが数人になると少し寂しいものがある。


「いつ見てもこの絵はいいのう。」

ただこの日はいつもと違い少し早く店を閉店した理由は、近右衛門・清十郎・千鶴子の三人が揃って夕食を食べに来たことか。

エヴァ達も居て下手に注目を集めても面倒なので店を閉めたらしい。


「そういえばあの画家さんどうしてます?」

「なかなかいい絵を描いとるよ。 一度個展を開かせてやりたいと思っておる。」

店に入った清十郎は店内に飾られている世界樹とタマモが描かれた絵を気に入った様子で眺めていた。

去年の暮れにタマモが散歩途中で会った画家の青年が突然訪ねてきて絵を貰って欲しいと言った時は、流石に横島も驚いたのが本音だ。

横島自身は芸術的なセンスは今一つなのだがタマモがその青年の絵を本当に気に入ってる様子を見て、もしかすればこの人はいずれ絵で成功するのではと直感的に感じていた。

それが霊感によるシグナルのような気がした横島が、何となく芸術に造詣が深い清十郎に一度見て欲しいと頼んだのが清十郎による画家の青年の支援に繋がったとの裏話がある。


「このまえね、さくらのえをかいてたよ!」

古い赴きがある店内に新しい絵は不思議とマッチして店の客の評判も良かった。

特にイキイキとしたタマモと猫達の表情が見るものを惹き付けるような絵である。

タマモは相変わらずあの画家の青年と会うことがあるらしく、今度は桜の絵を完成したら見せてもらうんだと楽しみにしていた。


「タマモ君は人を惹き付けるばかりか、見る目まであるのかのう。 羨ましい限りじゃ。」

「本能とか霊感とか並の人間や妖怪と違いますからね。」

そんな一枚の絵の話から盛り上がるタマモだが、近右衛門は思わずタマモが羨ましいと口にしてしまう。

周りの者を惹き付けるばかりか人を見る目すらあるように見えるタマモが近右衛門は純粋に羨ましかったらしいが、タマモは近右衛門の言葉の意味を理解できずにキョトンとしている。

横島はそんな近右衛門とタマモの様子に思わず笑いだしてしまうが、タマモは動物的な本能と妖怪的な直感で人を無意識に見極めてる節があるので他人には真似は出来ない。

それにもっと付け加えるとしたらタマモ自身の出会い運もなかなかいいのでやはり真似出来るものではないのだ。


「この子が大きくなる前に落ち着かせたいわね。」

かつて傾国の妖怪と恐れられた少女は過去とは真逆の道を歩み始めている。

千鶴子は長年の友人達と楽しげに話す孫よりも幼いそんな少女の未来を想い、願わくばタマモのようなこれからの子供達の平穏な環境を守ってやりたいと思う。

超鈴音の件を片付ければとりあえず内憂は無くなるので、何よりもそれが先であったが。

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