二年目の春・3

「これもお父様とか高畑先生やと一撃粉砕なんやろか。」

一方真珠湾に到着した修学旅行一行はアリゾナ記念館や戦艦ミズーリ記念館に太平洋航空博物館など見学していた。

戦争の怖さを感じる少女達だが、同時にこれらの施設は戦った軍や兵士達を褒め称えたような内容でもあり必ずしも反戦を主張する内容ではない。

真面目に説明を聞いていれば戦争の良し悪しは別にして、自分達の国を守ったことが一つの誇りなんだと痛感させられることになり日本と違うのだと改めて感じることになる。


「改めて見ると信じらんないわね。」

そんな真珠湾見学だが木乃香や明日菜は間近で見た戦艦ミズーリを見て、以前異空間アジトで見たサムライマスターの映画を思い出して感慨深げであった。

あれは魔法世界の映画だったため魔法世界の空中艦だったが、目の前にあるような戦う為の大きな乗り物を個人の力で破壊出来るなんて直接見るとにわかには信じられない。


「戦争を止めたというよりは破壊したという方が適切かもしれません。 義勇軍として数名の人間が次々に戦艦やら兵器を破壊していけば戦争の自体が変化するですから。」

特に木乃香と明日菜は父親や親代わりの人がそんな凄い人なんだと改めて理解したようであるが、夕映は戦争をしていた魔法世界の軍はたまったもんじゃなかっただろうと口にする。

戦略も戦法も何も関係なく個の力で軍艦を破壊し兵器を破壊していた赤き翼の面々は敵味方問わず厄介な連中だったのは想像に難しくない。

少し話が逸れるが元々ラカン以外は連合側に近い人間なので先に戦争を仕掛けて来た帝国を相手に好き勝手に暴れまわっていたのが実情で、戦いに身を投じる中でラカンやアリカに帝国の第三皇女テオドラなどと出会い戦争に隠された世界の闇に触れていくことになるのだが。

実際のところ魔法世界では赤き翼の人気は凄まじく信者と言ってもいい人は連合帝国問わず多いが、実は批判もそれなりにある。

連合なんかだと元老院御用達の学者や識者が彼らにより受けた被害や犠牲者の数の多さを指摘しているし、元々赤き翼も秘密結社完全なる世界の一部だと指摘し先の大戦の結末は内紛なのだと赤き翼の価値を落とそうとしている者もいる。

ただ一方の帝国では戦争の遺族や被害者を中心に批判的な人は居るが、同時に帝国では強い人に敬意を払う文化があるので戦争中盤まで多大な被害を出した割に帝国全体では赤き翼の評判は悪くなくむしろいいと言っても過言ではない。

ちなみに連合帝国問わず赤き翼の人気が落ちない最大の理由は、皮肉なことに戦後から現在に至るまでクルト・ゲーデル以外は誰一人権力を持たなかったということもあった。

近右衛門や土偶羅は戦後の後始末から逃げ出した赤き翼のとばっちりを受けてるので評価してないが、世界の真実も何も知らない一般大衆からすると世界を救ったにも関わらず権力にも金にも関わらずそれまでと同じ普通の生活に戻った赤き翼は尊敬されている。

そういう意味では魔法世界において後継者と言われる高畑の影響力は健在で、権力の側に加わったクルトと比較できない支持があった。


「横島さんは何したんやろね。」

そのまま戦艦という戦争を象徴する兵器から身近な人達の過去に思いを馳せる少女達だが、木乃香はふと横島は過去に何をして今があるのだろうかと考えてしまう。

世界の裏側の一端を知り父の偉大さを知って改めて思うのは、身近な存在でいつの間にか一緒に居るのが当たり前に感じる人のことだった。

最近高畑が横島に修行を頼む姿を見てるだけに木乃香のみならず少女達が密かに気になっていたのは、横島は世界を救った高畑や詠春と同等かそれ以上の過去があるかもしれないということだ。

いつか話してくれるのを待つことにしている少女達だがそれでも気になることは確かなようで、リアルな戦争という見学から少女達は自分達が思ってる以上に現実は厳しく残酷なのかも知れないと知ることになる。

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