二年目の春・3

「豆乳鍋は火加減に気を付けないとダメだぞ。」

明日菜とタマモが店に戻ると横島はそのまま二人に手伝ってもらいながら夕食の支度に入る。

豆乳鍋は火加減に注意しなくては豆乳が分離したりするのでそこは注意が必要だが、後は鍋物の基本さえ押さえておけば出来るので料理があまり得意ではない明日菜なんかでも覚えれるものだった。


「タマモはこれを丸くしてくれ。」

「うん!」

今回はタマモが私もやりたいと瞳を輝かせて熱い視線を向けていたので鶏団子を作り、タマモにはそれをこねて丸めてもらう調理を手伝ってもらうことにする。

すっかりタマモ愛用となった足場代わりの椅子を使い、一生懸命鶏肉をこねる姿に思わず笑みがこぼれる横島と明日菜は野菜や鶏肉の下拵えをしていく。


「明日菜ちゃんもだいぶ包丁の使い方上手くなったな。」

「そりゃまあ、何度も教わってますからね。」

そんな明日菜は横島と共に食材を切っていたが、包丁の使い方が成長してきたと褒められていた。

元々明日菜は横島が昨年の麻帆良祭の準備の時に包丁の使い方を教えるまでどちらかといえば力任せに包丁を使っており、教えた後も忘れた頃にしか料理しないので放っておくと力任せな使い方に戻りそうになる明日菜を横島は何度か指導していて最近では力任せではない包丁の使い方を覚えている。


「中学生だしな。 難しいことは覚えなくても包丁の使い方とか簡単な料理を覚えとけば十分だよ。 後は将来一人暮らししたり結婚したら覚えればいい。」

「将来ですか。」

正直木乃香どころかのどかと比べても料理技術に劣る明日菜が同じく料理が苦手な夕映なんかと少し前から料理を教わり出したのは、どちらかと言えば彼女達の側から料理を覚えたいと考えたからであった。

別に将来とか考えてる訳ではなく木乃香やのどかが楽しそうだったし、そんな二人を見て自分も少しは覚えてみようかなと思ったに過ぎない。

ただ横島が特に意味など無いままなんとなく将来という言葉を口にすると、明日菜は何とも言えない心境になる。

横島が深く考えてそれを口にした訳でないのは理解しているが、横島の中では未だに自分達がいずれ離れていくと考えてる節があることを改めて感じたせいだろう。


「しょうらいはあすなちゃんやみんなとおみせやるんだよ!」

しかしそんな明日菜のもやもやとした気持ちを吹き飛ばしたのは、将来という言葉に聞き覚えのあるタマモが発した自身の将来のことであった。

横島は明日菜の将来をと口にしたがタマモはみんなの将来という意味で受け取ったらしく、タマモの中では将来はみんなで店を営んでいくことで決まってるらしい。


「そうね、ずっとみんなで店やるんだよね。」

「うん!」

それは夢と理想と現実の区別さえ出来てないほど幼いタマモの発言であり横島はただ笑うだけだったが、明日菜は何故かそんな子供の発言が嬉しく感じてそれに乗っかるようにずっと店を続けると口にしてタマモを満面の笑みにさせる。

横島はきっと理解してないんだろうなと明日菜ですら思うが、明日菜自身は本気でこのまま横島の店でみんなで働けたらと思っていた。

元々高畑以外に家族らしい存在は居なく近右衛門や雪広清十郎が祖父のような存在の明日菜にとって、別にこのまま横島やタマモと人生を共にするのも悪くはないと普通に考えてしまう。

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