二年目の春・3

「おかいもの~、おかいもの~。 たのしいおかいもの~。」

賑やかな土曜も夕方になるとそろそろ夕食の支度に差し掛かる頃になるが、今夜は豆乳鍋にでもしようということになり明日菜はタマモと共に店にない豆乳を買いに近所のスーパーへと来ていた。


「タマちゃんなんか欲しいのある?」

日頃から横島の仕入れに着いて行き市場や朝市なんかにはよく行くがスーパー自体はあまり来たことがないので、物珍しげに店内をキョロキョロとするタマモを見ながら明日菜は頼まれた商品を買い物かごに入れていく。

普段からよくお手伝いをしたりと年齢以上にしっかりしてるように見えるタマモもやはり子供であり、明日菜は時々クンクンと匂いを嗅ぐタマモにちょっと苦笑いを浮かべながらも何かお菓子でも買ってあげようかと声をかけた。


「ううん、ごはんのまえだめだからいい。」

横島はあまり市販の菓子類をタマモに与えてないがお客さんからもらったり散歩の途中でご馳走になったりして市販の菓子類も意外に食べてたりする。

従ってこれ美味しいよなどと明日菜に教えてあげるタマモであるが、夕御飯の前のおやつはダメだと明日菜や木乃香たちに言われてるのでそれはきちんと守っておりこの日もお菓子はいらないと言う。


「じゃあ、これ買ってあげるから今度食べなさい。」

「ありがとう!!」

ただ可愛いキャラクターの付録がついてるお菓子が気になる様子のタマモはチラチラと眺めつつ我慢してるようで、明日菜は思わず吹き出してしまい今度食べる約束をしてタマモにお菓子を一つ買ってあげていた。

それは普通の百円とちょっとの安いお菓子であるが、嬉しそうに騒ぐタマモに明日菜もついつい顔が綻ぶ。


「タマちゃんと仲良くなってから子供も気にならなくなったのよね。」

心の底から自分を慕い本当の妹のように甘えてくるタマモの存在は確実に明日菜に影響を与え、子供とは何か家族とは何かということを考えるきっかけとなっている。

高畑との関係が落ち着いたのもタマモのおかげでもあると明日菜は考えているし、あれほど苦手だった子供に対しての意識も自身で驚くほど変わったと自覚していた。


「あらタマちゃん、お姉さんと買い物かい?」

「うん! ゆうごはんのかいものだよ! とうにゅうなべなんだって。」

「美味しそうね。 うちも今夜は豆乳鍋にしようかしら?」

ちなみにすっかりご近所の人気者であるタマモは夕食の買い物に来ている奥様達も顔見知りらしく、次から次へと声をかけられては世間話をしている。

もちろん明日菜も挨拶するが中にはあまりに仲の良さげなタマモと明日菜に本当の姉妹だと勘違いするしてるような人も居たりするが、タマモは基本的明日菜を家族だと認識してるので地味に誤解だと言えない空気だった。


「大丈夫? 重くない?」

「まかせて!」

まあそれはそれとして横島に頼まれた物を買い会計も無事に済ませた二人は、タマモが自分も荷物を持つと言うので軽い荷物をタマモが持ち帰路に着く。

時間的にはそろそろ西の空が夕焼けに差し掛かる頃であり、明日菜はこんな日々がずっと続けばいいなと思いながら小さく温かいタマモの手を握る。

そんな明日菜の些細な願いは本来ならば叶わぬ運命だったのかもしれないが、この世界では横島や近右衛門達の影ながらの支えもありなんの問題もなく普通に叶うことになる。




34/100ページ
スキ