二年目の春・3

「教授、ご飯食べて行きます?」

「もちろんじゃ。 ワシ嫁に逃げられてな。 食事は外食かスーパーの惣菜ばっかりなんじゃよ。 家庭の味は大歓迎じゃ!」

結局符術に関しては面倒なのと忙しいことから今のところ教えるのは無理だと弟子入りを拒否してる横島だが、高杉が店に来るのは拒否してない。

マッドが付くような研究者と言われる高杉であるが、好奇心と向上心に加えて教えを乞う者には分け隔てなく教える姿勢は嫌いではないし尊敬する部分もある。

あまり関わると厄介事を持ち込みそうなところは少々気になるものの、横島達を利用しようとしたりするつもりが全くない研究馬鹿なので少女達やエヴァが本気で嫌がらない限りは黙認するつもりだった。


「奥さんに逃げられたって浮気でもしたの?」

「いんや、浮気はしとらん。 ちょっと研究に忙しくて家に帰らなかったり、ちょっと値が張る魔法書やマジックアイテムを買ったりしたくらいなんじゃがのう。 ついていけんと言われて家を出ていったわい。」

そんなこの日の夕食では高杉の私生活の話が話題となり大学教授の家庭ということで少女達は興味を持つが、ちょっとという言葉を連発しつつ問題行動を重ねた結果奥さんに逃げられたと聞くとそれは仕方ないなと苦笑いしか出ない。

魔法の研究はとにかく金がかかるので教授自身かなり私財を注ぎ込んでるらしくよく金欠になると笑うが、あまりの生活力の無さに呆れてしまいどう反応していいか迷うほどだ。

横島もあんまり生活力があるタイプではないが高杉に比べればマシだなとちょっと安心したくらいだった。


「高杉教授は優秀なのは優秀なのよ。 東洋符術が専門だけど西洋魔法の符術化も研究していてその分野だと世界レベルだもの。」

「西洋魔法の符術はまだまだ研究段階じゃよ。 費用対効果も実用レベルではないし、技術的な改善点もまだまだあるからの。 魔法の矢くらいならあまり問題ないんじゃがあれの符術を作っても使い道がないからのう。」

なんか研究馬鹿のダメおじいちゃんとのイメージが先行する高杉のことに、刀子は流石にまずいと感じたのか高杉の技術の凄さを語ると少女達は驚き感心するが高杉本人としてはまだまだ納得が出来るレベルではないらしい。

ちなみにエヴァに弟子入りしようとしたのも西洋魔法の符術化の研究の過程で自身で西洋魔法の真髄を学ぶ必要があると考えたからなのだが。


一方横島は研究の話になると真剣になり考え込むような高杉を見て放置するには惜しいと考え始めていた。

魔法の符術化は実は多様な発展性がある分野であり、少女達に与えた腕時計型通信機の魔法機能も大元は符術の技術から発展させた技術とも言える。

まああれは超鈴音の未来の魔法アプリやドクターカオスなんかが研究していた術の情報化技術などをいろいろ拝借したのでそれほど単純ではないが。

いわゆる魔法の行使に必要な呪文を唱えるなどの手続きを予め符などに用意することで簡素化出来る技術として、研究する意義がある基礎魔法技術であった。

実は近右衛門や土偶羅は先月立ち上げた私設研究機関である麻帆良総研に高杉を研究員として招きたいと検討したが、基本的に技術や情報を秘匿する気のない高杉では機密を扱う麻帆良総研には入れられないという結果に至っている。

自身の技術を惜しみ無く与えるのは悪いことではないが、近右衛門達の長期戦略の要となる麻帆良総研は出せない技術や情報を扱うので基本的な価値観が合わない高杉ではダメだった。

誰にでも技術を教えるので人気や人望のある高杉であるが、元々限られた者にのみ継承してきた歴史がある魔法技術なだけにそんな高杉には教えられないと反発する関係者もまた多い。

結果として放置するには惜しいが協力するには無闇に技術を広められたりと、少々問題があるというイマイチ扱いにくい人物というのが近右衛門の評価である。

横島としても放置するには惜しいとは考えるが、下手に横島の技術を広められるといろいろ問題が起きるので教えたくても教えられなかった。

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