二年目の春・3

「あっ、きょうじゅさんだ!」

「ハハハ、タマモ君は今日も元気じゃな。 ほれお土産の絵本じゃ。」

さてこの日も日が暮れて横島達もそろそろ夕食にしようかという頃、先日魔法協会の新人研修で会った高杉教授が店を訪れていた。

麻帆良大の教授でありながら符術士でもある彼は横島の符術に目を付けたようで、新人研修の歓迎会以降横島の店を訪れるようになっている。


「わーい! ありがとう!」

流石に横島を魔法協会内の自身のサークルである符術研究会に加えるのは近右衛門からダメだと言われたらしく諦めたが、今度は横島の弟子にして欲しいと周りがびっくりするようなことを言い始めて押し掛けていた。

しかも相変わらずエキセントリックな雰囲気で関わるとトラブルでも運んで来そうなこの老人は、将を射るにはまず馬からと言わんばかりにタマモやさよばかりか木乃香達にまでお土産を持参して横島との関係を構築しようとしている。

その狙いはあまりに下心がみえみえだが高杉に悪意がないためか不思議とタマモも少女達も高杉を嫌うことなく、ちょっと変なおじいちゃんという位置付けをしていた。


「超リンとか葉加瀬とかもそうだけど、研究者って変わってるわよね。 人に教えてる大学の教授なのに。」

本来符術などは一門など限られた者にしか明かさぬ秘伝の技術でとはいえ、自身でもすでに弟子を持つような六十過ぎた老人が二十歳そこそこの横島に弟子入りを志願したその行動力には横島も少女達も驚き呆れている。


「優れた者に学ぶのに年齢は関係はないはずじゃ!」

「言ってることは正しいんだけど、なんか好奇心を抑えられない子供にしか見えないのよね。」

表の世界では気さくで人気のある教授だと噂で聞いたが、反面で一種の研究馬鹿で研究のために講義を突然休んだりする変人としても有名だった。

あやかや千鶴に夕映達なんかはそれなりに敬意を払っているが、明日菜やハルナに美砂達なんかは完全に変人扱いするも本人は気にするどころか喜んでる感じすらある。

横島と一年も一緒に居る少女達はすっかり変人に慣れていた。


「また来たのか、貴様は。」

「おお! 我がマスターエヴァンジェリン。 今日こそワシに叡知を授けてくれ!」

ちなみにこの高杉が魔法協会関係者の間で変人であると言われる最大の訳は、彼がエヴァの弟子を勝手に自称してるからであった。

関東魔法協会でも高畑や近右衛門などの一部を除き誰も関わりたがらないエヴァに数年前から弟子入りを志願していて、いつの間にか弟子だと自称してるのだから魔法関係者が呆れるのも無理はない。

もちろんエヴァは何度頼まれても門前払いをしていたが。


「こんな人だけど魔法協会じゃ結構影響力あるのよ。 教授自身も教えを望む人には惜しみ無く技を教えてるから。」

高杉が横島の店に来てしかもほとんど身内しかいない夜に平気な顔をして来れるのは、彼がエヴァでさえ忌み嫌うことをしないで教えを乞うからなのだが。

刀子いわく高杉は研究の為なら何でもするが、反面で自身に教えを乞う者には自身が継承したり研究した秘伝の符術や魔法技術を惜しみ無く教える人物らしい。

実はあまりに誰にでも教えるので魔法協会からは魔法協会と関係ない者には誰彼構わず教えないで欲しいと言われているが。



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