二年目の春・3

「のどかちゃんも上達したなぁ。」

同じ頃、店の厨房ではのどかが横島と共に調理をしていた。

驚異的なスピードで料理の腕を上げている木乃香に隠れているが、彼女もまた横島の指導の影響で一般的な見習いより早いスピードで料理の腕が上達している。

ただ料理というのは意外に体力や腕力が必要であり、木乃香と同じく非力なのどかは必ずしも調理スピードなんかは早い訳ではないが。

しかしこの日作っていた店の看板メニューであるオムライスは、難しい卵の調理もきちんと出来ていてとうとう横島の店でお客さんに出せるレベルになっていた。


「まさか私が作れるようになるなんて……。」

試食として横島と共に自分の作ったオムライスを食べてみるのどかであるが、横島のオムライスと変わらぬ味になった結果に驚きというか少し不思議そうな表情を浮かべる。

横島のみならず超や五月や木乃香など周囲に自身より料理の上手い友人が多いのであまり自覚がなかったが、こうして結果として形になると改めて自分の現状を考えさせられるのかもしれない。


「うちで一番忙しい中、よく頑張ったな。」

木乃香よりは随分遅れたが元々昨年の春から働いていた木乃香に対してのどかは夏休みからと期間が違うことに加えて、木乃香とのどかでは料理を習い実際に調理をする時間が全く違う。

勉強に麻帆良カレーや納涼祭の会議に加えて調理手伝いと店で一番忙しいのは相変わらずのどかであり、才能以外の時間の配分の違いが木乃香との一番の差であったりする。


「私、去年の今頃なんて人と話をするだけでも緊張してたのに。」

これからはのどかにも厨房を任せられるなとやはり軽い調子で語る横島に、のどかはムリムリと首をぶんぶんと横に振るが横島は大丈夫だと笑うのみだった。


「今でも時々夢を見るんです。 高畑先生でさえ話しかけようとしても出来なかったつい一年前の頃の夢を。 ……それがこんなに変われるなんて。」

しかし次の瞬間には目の前の横島の目をのどかはしっかりと見つめて、ふと時々見る夢の話を始めた。

それはつい一年前の自分の姿であり、誰かに話しかけようとしても出来なかった頃のもどかしい自分の夢らしい。

実のところ今現在でも男性に対する苦手意識なんかは完全には消えてないが、横島を抜きにしても親しい大学部の男子達は妹のようなのどかに優しいので日常生活で困るほどではない。

のどか自身は自分のことを変えたいと昔から思っては居たがなかなか出来ずに、結果として変わった原因は友人である木乃香や夕映になんとなく流されるように横島と関わったからである。

そして今また一年前の自分には絶対に作れないと感じた横島の料理を作ることが出来たことは、大きな変化とは言えないが確実にのどかの自信となり彼女はまた一つ変わることが出来るだろう。


「高校卒業する頃には自分の店も持てそうだぞ。 いっそ木乃香ちゃん達みんなでうちで就職するか?」

この時のどかはかつて横島のことを自分とは住む世界が違う存在だと感じた事を続けて思い出す。

相変わらずいい加減ですぐに冗談を言う横島は、将来は木乃香とのどか達に店を任せるからとまで言い始めるのだから素直に笑ってしまう。

本気にしちゃっていいですかと言う言葉を口に出しそうになり、思わず顔を真っ赤にして余計に横島に笑われていたが。

決して派手に目立つタイプではないが、彼女もまた本来とは違う才能を開花させて全く別の未来へと歩んでいくことになる。


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