二年目の春・3
「お久しぶりです。 体調はいかがですか?」
一方この日の放課後には夕映と木乃香が昨年横島の店で一時的に指導を受けた宮脇兄妹の居る宮脇食堂を訪れていた。
今回二人が雨の中で訪れた理由は麻帆良カレー公式店発表から数日が過ぎたので様子見るためである。
宮脇食堂の再建は宮脇一家の運命がかかる重要な問題な上、どうしても自分達の手の届かないところで進むのである意味横島と少女達にとって一番デリケートな事案だった。
距離的にも横島の店から離れていてなかなか目が届かないので、夕映やのどかなんかは時々顔を出しては様子を見に来ていたようである。
「お陰さまで店に復帰出来たわ。 伸二は相変わらず未熟だけどね。」
そんな宮脇食堂ではいよいよ今年に入り退院した母親が最近ようやく店に復帰したらしく、以前のように一人で店を切り盛りまでは出来ないものの息子の伸二と共に体調と相談しながらならば働けるようになっていた。
夕映と木乃香が来たこの日も母は椅子に座りながら息子の伸二に料理の指導をしながら店に出ていて、二人はようやく宮脇食堂の一件が完全に終わりを迎えたことに心底ホッとする。
店の再開をもって一応横島達の手は離れていたが当初の目的が母親の復帰まで店を守りたいとのことなので、夕映達は特にこの時を待っていたのだ。
「麻帆良カレーの方は問題など起きてませんか?」
「ああ、そっちもお陰さまで順調だよ。 そうだ、ちょっと味見してみて。」
あいにくと雨降りの午後なので客の入りはイマイチであったが、店自体は普段は混雑する日もあるようで夕映なんかは最初に横島と来た時との店の雰囲気の違いを特に感じていた。
母親は息子の愚痴のようなものを夕映と木乃香にこぼしつつもどこか嬉しそうであり、念のため麻帆良カレーの状況を聞くとせっかくだからと味見というか試食することになる。
「美味しいですね。」
「全体の纏まりがええわ。 やっぱりお母さん料理上手や。」
久しぶりに食べた宮脇食堂版麻帆良カレーは、横島の味から宮脇食堂の味へと幾分変化していた。
基本的な味は変えてないがサラサラのカレーをご飯にかけて食べる丼物である宮脇食堂版の特徴や客層などに合わせて味を少しばかり整え直したらしい。
横島の麻帆良カレーは何処か欧風料理の感じが残るが宮脇食堂版はより日本らしい味に変化したとも言える。
「元々アレンジしやすい味だったのよ。 きっとそこまで考えてくれたんだと思うわ。 それに夕映ちゃん達にも本当にお世話になって……。」
本物の味を知る夕映と木乃香の美味しそうな表情に母親はホッとしたような表情で喜ぶも、元々宮脇食堂の麻帆良カレーレシピはアレンジなんかがしやすいようにと横島が考えたことを見抜いていた。
食堂を長い年月経営して来た母親からすると僅か数週間で息子を曲がりなりにも職人として育て上げ、潰れる寸前まで落ちた店を再建した横島と夕映達に今でも涙ぐむほど感謝しているようだった。
実際それがどれだけ困難なことかは関わった誰もが理解しているし、あの横島でさえ宮脇兄妹の後には似たような頼みは全て断っているのだからよほどと言えるだろう。
ちなみに報酬に関しては母親の退院後に伸二と母親と少し話していて、母親の仕事復帰と店の経営再建を最優先にするようにと告げて今年は受け取らないと言っている。
当初母親は毎月数万ずつ分割して払うつもりだったが、横島としては正直報酬はあっても無くても良かったことから店の再建を優先させるようにと説き伏せていたのだ。
実際入院と店の経営悪化で宮脇家の家計は楽ではないので助かったのが本当のところだったが。
「これも何かの縁ですからね。 これからも何かあれば声をかけて下さい。」
結果として少ししんみりとしてしまう夕映達と母親だったが、これからは同じ街の店としてより一層共に励み協力していくことになる。
一方この日の放課後には夕映と木乃香が昨年横島の店で一時的に指導を受けた宮脇兄妹の居る宮脇食堂を訪れていた。
今回二人が雨の中で訪れた理由は麻帆良カレー公式店発表から数日が過ぎたので様子見るためである。
宮脇食堂の再建は宮脇一家の運命がかかる重要な問題な上、どうしても自分達の手の届かないところで進むのである意味横島と少女達にとって一番デリケートな事案だった。
距離的にも横島の店から離れていてなかなか目が届かないので、夕映やのどかなんかは時々顔を出しては様子を見に来ていたようである。
「お陰さまで店に復帰出来たわ。 伸二は相変わらず未熟だけどね。」
そんな宮脇食堂ではいよいよ今年に入り退院した母親が最近ようやく店に復帰したらしく、以前のように一人で店を切り盛りまでは出来ないものの息子の伸二と共に体調と相談しながらならば働けるようになっていた。
夕映と木乃香が来たこの日も母は椅子に座りながら息子の伸二に料理の指導をしながら店に出ていて、二人はようやく宮脇食堂の一件が完全に終わりを迎えたことに心底ホッとする。
店の再開をもって一応横島達の手は離れていたが当初の目的が母親の復帰まで店を守りたいとのことなので、夕映達は特にこの時を待っていたのだ。
「麻帆良カレーの方は問題など起きてませんか?」
「ああ、そっちもお陰さまで順調だよ。 そうだ、ちょっと味見してみて。」
あいにくと雨降りの午後なので客の入りはイマイチであったが、店自体は普段は混雑する日もあるようで夕映なんかは最初に横島と来た時との店の雰囲気の違いを特に感じていた。
母親は息子の愚痴のようなものを夕映と木乃香にこぼしつつもどこか嬉しそうであり、念のため麻帆良カレーの状況を聞くとせっかくだからと味見というか試食することになる。
「美味しいですね。」
「全体の纏まりがええわ。 やっぱりお母さん料理上手や。」
久しぶりに食べた宮脇食堂版麻帆良カレーは、横島の味から宮脇食堂の味へと幾分変化していた。
基本的な味は変えてないがサラサラのカレーをご飯にかけて食べる丼物である宮脇食堂版の特徴や客層などに合わせて味を少しばかり整え直したらしい。
横島の麻帆良カレーは何処か欧風料理の感じが残るが宮脇食堂版はより日本らしい味に変化したとも言える。
「元々アレンジしやすい味だったのよ。 きっとそこまで考えてくれたんだと思うわ。 それに夕映ちゃん達にも本当にお世話になって……。」
本物の味を知る夕映と木乃香の美味しそうな表情に母親はホッとしたような表情で喜ぶも、元々宮脇食堂の麻帆良カレーレシピはアレンジなんかがしやすいようにと横島が考えたことを見抜いていた。
食堂を長い年月経営して来た母親からすると僅か数週間で息子を曲がりなりにも職人として育て上げ、潰れる寸前まで落ちた店を再建した横島と夕映達に今でも涙ぐむほど感謝しているようだった。
実際それがどれだけ困難なことかは関わった誰もが理解しているし、あの横島でさえ宮脇兄妹の後には似たような頼みは全て断っているのだからよほどと言えるだろう。
ちなみに報酬に関しては母親の退院後に伸二と母親と少し話していて、母親の仕事復帰と店の経営再建を最優先にするようにと告げて今年は受け取らないと言っている。
当初母親は毎月数万ずつ分割して払うつもりだったが、横島としては正直報酬はあっても無くても良かったことから店の再建を優先させるようにと説き伏せていたのだ。
実際入院と店の経営悪化で宮脇家の家計は楽ではないので助かったのが本当のところだったが。
「これも何かの縁ですからね。 これからも何かあれば声をかけて下さい。」
結果として少ししんみりとしてしまう夕映達と母親だったが、これからは同じ街の店としてより一層共に励み協力していくことになる。