二年目の春・3

「僕は教師失格だな。」

近衛邸での話し合いも終わりそれぞれが帰路に着く中、高畑は教え子の超と葉加瀬の問題に一人肩を落としていた。

高畑が超鈴音の問題を知ったのは割と最近で茶々丸が超鈴音に反旗を翻した後になる。

近右衛門が超と葉加瀬の担任である高畑に隠したまま問題を処理する訳にもいかないからと話したのだが、そのあまりに荒唐無稽な話に流石の高畑もにわかには信じられなかったほどだったのだ。

しかも二年間担任として受け持った教え子がテロリストも真っ青な企みをしていたなど高畑は気付きもしなかったし、二人の目的が魔法世界の救済だというのだから自身のやってきたことを考えるとこれ以上ないほど皮肉だとしか感じない。


「気付かねばならない立場だったのに。」

超鈴音の異質さに高畑は当然気付いてはいたが、まさか未来から来たスプリングフィールド一族の末裔だと聞くと本当に複雑な心境だった。

失われる魔法世界を救うため過去に来たという彼女の境遇と覚悟に高畑の心は揺れた。

もしもナギ・スプリングフィールドならば彼女のように細かいことを気にせず魔法世界の救済のために動いたかもしれないと思うと、決して他人事だとは思えなかったと言うのが正直なところだろう。

何より超鈴音の知識や技術があればもっと他に方法はあったはずであり、自分が一年の頃からきちんと教え子と向き合っていれば今回のような結果になる前に別の可能性へ導けたかもしれないと考えると悔しくてたまらない。


「これも中途半端にしたツケか。」

高畑自身は過去数年間の行動を満足などしてないが自分なりに精一杯足掻いて来たとは思っていたし、実際高畑の努力により秘密結社完全なる世界は壊滅寸前まで追い込まれたしフェイトの追跡の手から明日菜を隠せたのも高畑の努力が間接的には影響したと言っても過言ではない。

ここ数年彼らの自由を奪ったことは決して無駄ではないし、高畑の努力が無ければ彼らはもっと自由に動き暗躍していただろう。

ただ寂しさを隠し愛情を求めていた明日菜に気付かず、超と葉加瀬の狂ったような計画に気付かなかったことは高畑にとってショック以外の何物でもなかった。



「高畑先生落ち込んでたわね。 受け持ちの教え子からテロリストを出すとこだったんだし仕方ないけど。」

一方横島はエヴァと茶々丸と刀子と一緒に一旦瞬間移動で店に帰って解散することにしたが、店に戻った刀子はふと解散間際に胸の中にある不安を口にしていた。

刀子は超や葉加瀬とは同じ学校の教師と生徒という関係ではあるが直接的な関わりは全くないので第三者的な時点で見ていたが、高畑にとって二人は教え子であるし二人の目的は高畑と同じ魔法世界の救済なのだ。

魔法協会も出し抜かれていた超の計画に高畑が気付けなかったことは仕方ないことだし刀子も責める気はないが、同じ教師として高畑の心中を察すると少し心配になるらしい。


「もし刀子さんが高畑先生の立場だったらどうします?」

「……難しいところね。 生徒指導で解決出来るレベルじゃないもの。 学園と魔法協会と相談して対処するしかないと思うわ。 正直なところ話を聞く限りだとどのみち今回のような結果になったと考える方が自然ね。」

そんな高畑を案じる刀子に横島は少し微妙な表情を浮かべ教師としての意見を刀子に求めた。

横島自身も超鈴音の問題を高畑に言うかは迷った末に言わなかったのだ。

別に高畑を信じられなかった訳ではないが、超鈴音の心情も察するところはあり中途半端に問題に手を出すのが嫌だったと言うのはある。

高畑は教師として責任を感じてるようだったが、最早教師の手に負える問題ではないので刀子も横島も近右衛門も誰も高畑の責任だとは思ってない。

ただまあやりきれない思いがあるのは今回の件の裏にある複雑な積み重ねの結果なのだろう。


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