二年目の春・3

「お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます。」

「よう来たの。 そう堅苦しい挨拶は抜きにして座ってゆっくり話そう。」

さてこの日の夜はいよいよ茶々丸が近右衛門と話す日であり、近衛邸にはエヴァと茶々丸に加えて横島と刀子と高畑も来ていた。

一応横島がセッティングしたこの場であるが、第三者的な視点を持つ刀子と高畑も近右衛門の提案で同席することになっている。


「本当は欠席裁判のようなことはしたくないんじゃがのう。」

「この期に及んで貴様がそんな甘いことを言ってるから奴が調子に乗るのだ。」

議題はもちろん超鈴音に関する意見交換であるが、近右衛門としてはこの期に及んでも超鈴音が居ないこの場で彼女の処遇とまではいかなくても今後が決まることに少し悲しさを感じていた。

やはり茶々丸がエヴァや自分に相談すべきだと語った時に、もし超鈴音がその言葉を受け入れていたらきっと別の未来があっただろうと思うと本当に残念なようだった。

ただエヴァはそんな近右衛門の甘さが招いたのが現状なのだと語る。

実際に横島が居なければ近右衛門は超鈴音に出し抜かれてしまうのだから、その甘さが致命的なのはエヴァからすると言うまでもないことであった。


「話をする前に茶々丸ちゃんに言っとくけど、すでに存在する世界から過去に行っても未来なんて変えるってか塗り替える力なんか人間にはないぞ。 せいぜい過去を別の平行未来に導くことくらいは可能だけどな。」

そんなエヴァの指摘に近右衛門は自覚があるらしく渋い表情を浮かべるもそれでも変えられない性分だと言いたげであるが、二人が会話している間に横島は茶々丸に今回の問題の一番の肝ともいえる時間移動と世界について簡単に説明を始める。

それは超鈴音が聞けば卒倒しそうなほど厳しい現実であり、超鈴音の目的が自身の生まれた未来を変えることだと知る茶々丸は横島の言葉に衝撃を受けたような表情をしてしまう。


「では超さんの行動は無意味だと?」

「それは超さん本人がどう受け止めるかによるだろうな。 この世界を自分の望む未来に導くことを望むなら満更無意味じゃないぞ。 ただし彼女にとって何をどうしようが生まれた未来は変わらず存在するってだけだ。 まあ現状だと超さんはその事実を知ることも確認することも出来ないだろうけどな。 下手すると別の未来に導いてそれで未来を変えたって考えて満足するかもしれんし。」

横島の語ることは本来ではあくまで仮説の域を出ない話でしかなく、超鈴音ですら時間と世界の関係は仮説でしか考えることが出来ない。

ただし茶々丸は横島がいかに異質な存在か知っているし異空間アジトにも行ったことがあるので、それが嘘ではないのだと理解はしている。


「そもそも彼女のタイムマシンじゃ自分の世界に帰るにしても一旦過去に飛んで再度未来に飛ばなきゃ帰れんし。 この時代はもう彼女の未来とは繋がってないからな。 ぶっちゃけそこまで話せればいいんだが……。」

「横島君の素性を超君に明かすのはリスクが大き過ぎるわい。 超君自身は純粋に世界のことを想っていてもこの時代の彼女の仲間や未来の仲間が全て同じとは限らんしのう。」

来るか来ないか分からぬ未来の為に平和に生きるこの時代の人を犠牲にすることが間違ってると考えて生みの親に反旗を翻した茶々丸であるが、根本的には彼女が嫌いになった訳でも無ければ好き好んで敵対しようとしてる訳でもない。

自らの生みの親のあまりに悲しき運命に茶々丸の心は微かに揺れてしまう。


「超さんは仮に横島さんのことを知っても止まらないでしょう。 すでにこの世界で未来を変えることを決めてますから。」

ただ茶々丸は横島が語ったことに一つだけ異議を唱えてもいて、横島は超鈴音に未来が変わらぬことを話せればと考えていることに対し、仮に超鈴音にそれを話して真実だと理解させても彼女は止まらないだろうと茶々丸は考える。


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