二年目の春・3

「さて、貴様の合気柔術に何が足りないか分かるか?」

初手からエヴァに投げ飛ばされたさやかはその後も自ら挑むが、彼女がエヴァの手に触れるとその力を利用させ流れるように投げられたり関節を決められてしまう。

当然ながら基本的な技量が違うがさやかの合気柔術には根本的に欠けてるものがあるとエヴァは語る。


「私は人の内なる力と言われる気が使えません。 本来の合気柔術は神鳴流のように裏の武術であると以前教わりましたわ。」

「そうだ。 本来は自らの気と相手の気を奪うなり利用するなりするのが合気柔術になる。 私は何も力は使ってないが貴様の気の流れを読んで戦ってはいた。 やってることの原理は昨日の横島とほとんど同じだ。」

さやか自身も理解しているようだが本来の合気柔術は武道でいう気を使うので、どちらかと言えば現在の認識では裏の武術が本流となる。

ただ元々日本では裏と表の区別などなかったので、それを言うならば明治以前の古流武術のほとんどは真髄が裏の武術になってしまうのだが。

古菲や豪徳寺達もそうだが武術は追求すればするほど一般には秘匿されてる力に近付いてしまうらしい。


「いいか、頭で考えるな。 力の流れを感じろ。 気は生きとし生ける者の誰もが無意識に使えている力なのだ。 型や技は体が覚えてるのだからな。」

「はい、ありがとうございました。」

結局エヴァとさやかの手合わせはさほど長い時間ではなかったが、エヴァはさやかがの現状とその課題を語ると手合わせを終了した。


「楽しそうだったな。」

「力任せのタカミチの相手はいい加減飽きたからな。 いい気晴らしだ。」

別に横島に刺激された訳ではないのだろうが、エヴァ自身も少々身体を動かし人と対戦したくなる時はあるようで本人いわく気晴らし程度のことだが意外に楽しんでいたらしい。

高畑の場合は元々一緒だった赤き翼への憧れからか、力任せの豪快な戦い方ばかりするので少々うんざりしてるようでもあったが。


「合気柔術かぁ。 どっちかって言えば女の子に向いてるよな。 ちょうどいい先生と経験者も居るし、みんなの護身術として取り入れようか? チカンの一人や二人は撃退出来た方がいいだろうし。」

「いいと思うけど麻帆良だと一般的な魔法生徒は正直あんまり体術は学ばないわよ。 戦闘に使える魔法はたいていが魔法障壁と武装解除と魔法の矢くらいね。 望まなきゃ実戦の機会さえないから。 一応魔法協会では体術も学ぶように指導してるけどほとんどは時間的な余裕がないから。」

その後エヴァは本当にただの気晴らしだったらしくチャチャゼロと茶々丸を連れて公園内を散歩にいくが、横島はエヴァとさやかの手合わせを見て他の少女達にも護身術として学ばせようかと言い出す。

横島としてはあくまでも護身術の一貫であるが、人前で使えない魔法よりは余程意味があると考えてるらしい。

ただ刀子いわく魔法協会でも戦闘や戦いに興味がある者以外はほとんど体術など学ばないらしいが。

正直なところ合気柔術は決して簡単な武術ではないが刀子としては中途半端に神鳴流を教えることは出来ないので、護身術程度ならばそちらの方がいいとは思うようである。

まあどちらにしろ少女達が戦場に立つ可能性はほぼなく気と魔力の修行のついでに護身術を覚える程度なので、経験者の雪広姉妹が使える合気柔術なんかは最適だった。


「じゃあ、手始めに少し身体を動かすことから始めるか。 筋肉はあんまり要らんが気を使うには少なからず肉体の鍛練も必要だしな。」

刀子と話し合いある程度方向性を決めた横島は、少し少女達に運動をさせることから始めようかと考え具体的な方法へと考えを巡らせていく。

ぶっちゃけあまり修行ばかりさせても続かないのは横島自身も身をもって理解してるので、スポーツなんかを交えて身体を動かしながら合気柔術などを教えていきたいらしい。

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