二年目の春・2

そしてこの日は麻帆良学園では部活やサークル活動が基本的に休みになるため、授業が終わると街には学生達が溢れていた。

麻帆良市内は一般企業も商店などの店も基本的に早く終わるので横島の店も夕方六時には閉店予定である。


「火傷すんなよー。」

そんな店では昨年の秋に続き常連の少女達が溶かしたろうそくから手作りキャンドルを制作していた。

相変わらず横島が指導しており材料費のみで誰でも作れると前回評判が良かったので今回もやるらしい。

実際それほど難しいことはしてなく小学生が夏休みの工作にでも作れる物ではあるが、女子中高生がわざわざ家で作るかと言われると作らないのが現実である。

みんなでこうしてワイワイと賑やかに作るからこそ楽しいし作りたいのだろう。


「そういやマスターのとこ冷蔵庫大丈夫なの?」

「四時間くらいなら開けなきゃ大丈夫だよ。 どうせ営業する時間じゃないしな。 気になるなら水でも凍らせておけば十分だよ。」

ちなみに停電の時期になると麻帆良でよくされる会話が停電による冷蔵庫などの電化製品の影響や、電気がなくても食べれる食べ物の話になる。

横島も職業柄のせいか割とよく聞かれることではあるが、冷蔵庫はそのままでも大丈夫で冷凍庫は中身の量により中身が少ないならば水を入れたペットボトルでも入れておけば十分だった。


「どうした、タマモ?」

そしてキャンドル作りも終わり夕方になるとこの日は停電のため客足も早くに途絶えていて、横島は木乃香達と夕食を作っていたが珍しく血相を変えたタマモが突然二階に走っていき戻って来ると今にも泣きそうな顔で横島を見上げていた。


「はにわさんがとけちゃう。」

「ハニワ兵は溶けんぞ。 アイスじゃないんだから。」

それは横島も少女達も見たことがないほど泣きそうなタマモに店に居た美砂達やあやか達まで集まって来るが、タマモはハニワさんが溶けちゃうと呟くと瞳に涙を浮かべる。

横島は最初は意味が分からないらしくハニワ兵は停電でも溶けないと説明するも、どうやらタマモが心配していたのは冬に一度だけ雪が降った時に作った雪のハニワ兵のことらしい。

あのときコッソリと二階の冷凍庫に隠したのが未だに見つかってなかったのだ。


「店の冷凍庫にでも入れて置けば大丈夫や。」

「いっそ、そいつも本物のハニワ兵にしちまうか?」

元々二階の冷蔵庫は飲み物を冷やす程度にしか使ってないので中はほとんど空であり流石に溶けるかもしれないが、木乃香達が店の冷凍庫に入れておけば大丈夫だとなだめていく。

ただそれでも不安げなタマモの珍しいワガママに横島は何を思ったのか、雪ハニワ兵を本物のハニワ兵にしようかと突然言い出し周囲を驚かせてしまう。


「本物のハニワ兵ですか?」

「ハニワ兵は元々兵鬼って言って具体的にはアシュタロスが作った非転生型魔性生命体の一種なんだよ。 こっちの世界の言葉で分かりやすく言えば人造魔法生物かな。 魂がないから転生は出来ないけどな。 格となる体があれば普通に仮初めの命は吹き込むことが出きるんだ。」

しかもそれは魔法という枠に入れていいのか悩むほど生命創造に限り無く近いアシュタロスの遺産であった。

ハニワ兵が非生命体なのか生命体なのかは議論の余地がありここでは省くが、人工知能を軽く凌駕する知性と能力の源は擬似的な生命体の創造である。

横島の世界では割とこの手の技術が進んでいて普通に人間でも仮初めの命を与えるゴーレムなど作れたが、この世界では実は生命創造はタブー視されてる分野なので一部の人間以外はほとんど関わることさえない技術ではあるが。


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