二年目の春・2

「おかえり、今日はミートパイだぞ。」

さて美砂が部活を終えて帰る頃には街は夜の闇に包まれつつあった。

横島の店でもすでに店内の客はまばらで夕食を食べに訪れた美砂達を横島とタマモが暖かく出迎える。

横島は夕食のメニューを伝えるとすぐに調理のため厨房へ戻るが、タマモは今日描いた絵を見てほしいらしくスケッチブックを持って三人のところへかけて来る。


「よく描けてるじゃん!」

「うん、上手だよ。」

四月と言ってもまだ朝晩は寒く店の暖かさが少し冷えた体に心地いい。

美砂達は厨房から匂う美味しそうな香りに空腹のお腹が更に空くような気がしつつも、タマモの見せる絵を見ながら夕食を待つ。

この時間木乃香達はすでに店に居て木乃香とのどかは夕食を手伝いつつ料理を習っており、夕映と明日菜はいつ閉店してもいいように店の後片付けをしている。

ハルナは店の隅で麻帆良祭で売る同人誌のネタを考えているようで時々一人でニヤニヤとしていて、あやかと千鶴と夏美の三人はあやかは何かの仕事の書類を見ているが千鶴と夏美は暇なのかオセロをしていた。

夕食の時間はほぼ同じ頃なのであとは刀子と高畑がここに来るかや雪広さやかや横島と親しい3ーAのクラスメートに常連の客が時々加わるくらいなど違いがあるが、あとはだいたいいつもと変わらぬ様子になる。


「あっ、刀子さんおかえりー!」

「今日は間に合ったわね。」

そして夕食も出来てフロアのテーブルに料理を並べる頃になると少し疲れた様子の刀子が店にやって来た。

教師という職業柄どうしても生徒より先に帰る訳にはいかないので、刀子はいつもギリギリか間に合わないことも多い。

少女達からすると横島と二人になれる夜を狙ってるのではと見られたこともあるが、純粋に忙しいのが本当のところであり最近は少女達も理解している。


「今日はまたオシャレな料理ね。」

「木乃香ちゃん達に作らせたいと思いましてね。」

刀子が来て料理が運ばれてくるとそれぞれ自由にしていたみんなが集まり夕食となるが、この日はミートパイをメインにサラダとポトフの夕食だった。

カロリーを気にする女性陣が多いのでサラダとポトフは野菜で具だくさんになっている。

ちょっとボリュームが欲しい人の為に軽めのパスタも作っていて、味・量・栄養共に考えられたメニューであった。


「こういうの家で作れたら料理上手だって自慢するレベルよね。」

「パイってのは料理にもスイーツにも使うからな。 定期的に作って経験積まなきゃダメだからさ。」

ミートパイ自体は別に初めてではないが、料理を習っている木乃香やのどかに経験を積ませる意味もあり横島は時々作るメニューとなる。

サクッとした歯ごたえの美味しいパイを作るには当然ながらセンス以上に経験も必要だった。

この日の味付けは必ずしも本場のイギリスやフランスの味ではなく、かなりアレンジした日本人好みの味にしてあるが。

夕食自体はいつもと変わらぬ風景だがいろいろ考えていた少女達には、こうした当たり前の日常の一時に心底ホッとした心境だろう。

ちなみに桜子なんかは食後に余ったスイーツを貰いペロリと平らげていたが。

とにかく少女達はこの当たり前の時間を守る為に、それぞれが悩み考えていくことになる。



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