二年目の春・2

「貴様、去年もこのメニュー出してたな。」

同じ頃横島の店では大人バージョンのエヴァが、この日の日替わりメニューである茹でただけの新じゃがを食べていた。

皮を剥く必要がない新じゃがを茹でてそのまま皿に乗せて提供していて、食べる人が自分でナイフで切り分けて昨年好評だった数種類用意してあるソースを付けて食べる物になる。


「新じゃがはシンプルなまま食うのもいいだろ。」

相変わらず喫茶店で出す料理かと言われるようなメニューであるが、こういう他にはあまりないメニューは横島の店では意外に評判がいい。

横島自身は少し暇になったからかエヴァ付き合うように新じゃがに合う岩塩とバターを少しつけて食べていて、何よりもじゃがいもの味をそのまま楽しんでいる。

ホクホクと熱い新じゃがに岩塩とバターを少量つけるとイモの甘さと旨味が口いっぱいに広がり癖になりそうなほど美味い。

ちなみに横島はタマモと並んで豪快に丸ごと頬張っているが、エヴァは流石に数が少ないとはいえ他の客の人目が気になるらしく一口サイズにカットしてフォークとナイフで上品に食べている。


「おっ、いたいた。 姉ちゃん今日こそ勝たせて貰うぜ。」

「懲りんじじいだな、貴様も。」

なんというか横島とタマモと一緒にイモを食うエヴァの姿には魔法世界で魔王と恐れられている威厳はなく、タマモと普通に会話してる様子からも何処かほのぼのとした雰囲気があった。

そんなエヴァであるがごく最近一つの変化が起きている。

この日いつものごとく暇をもて余した常連の年配者の一人が店に入って来ると、なんと囲碁盤を持ってエヴァの元に来て勝負を挑んでいた。

実は春休みも終わり昼間の店に学生が居なくなった先日にエヴァは大人バージョンで店に来てタマモに囲碁を教えて暇潰しをしていたのだが、そこに居た店の常連の年配者の一人が暇だったのか口を出し始めるといつの間にかエヴァと勝負をする流れになっていたのだ。

以前のエヴァならば相手にしなかったのかもしれないが、最近は木乃香の誕生パーティに参加するなど人と関わるのをあからさまに拒否しなくなったこともあり雰囲気が変わったのか横島の店では他の常連に声をかけられることが出てきたらしい。

元々大人バージョンのエヴァは昨年から時々横島の店に来ていたので謎の美女として常連の年配者なんかは噂していたらしいが。

ただ見た目と違い長く生きてるエヴァにその辺の年配者が囲碁で勝てるはずもなくぼろ負けしたのだが、それで燃えたのか負けた年配者はここ数日エヴァを見ると勝負を挑むのがお決まりのパターンになりつつある。


「暇な老人の力を見せてやる!」

「自慢になってないっすよ。」

横島も横島で流石に囲碁をしてるほど暇ではないのでエヴァとしては暇潰しでしかないのだろうが、外人の美女であるエヴァは年配の男性達に密かな人気が出つつある。

年甲斐もなくエヴァに勝とうと努力してるらしくその成果を見せるんだと張り切るものの、まるで女王様のようなオーラのエヴァはやれるならやってみろと言わんばかりだった。

それは呪いから解放され自身の成長すら不可能ではないという現状が生んだ心理的な変化とも言えるし、非常識な横島や純粋なタマモの影響を受けたとも言える。

ただ一つ言えることはエヴァもまたこの一年余りの期間で十代の少女達と同様に劇的とも言える変化をしたのは確かだろう。






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