「へ～、新人研修っすか。」

そしてこの日の夕食時には刀子から横島と少女達に新人研修の話がされていた。

最近一緒であるメンバーではエヴァ一家は当然不参加であり、あとは雪広さやかも過去に魔法協会の協力者として新人研修に参加したので不参加らしい。


「いよいよ、魔法デビューね！ 私達のこと生意気な素人だって馬鹿にして絡んできたチンピラを、マスターの圧倒的な力で叩きのめして鮮烈なデビューを飾るのよ！！」

新人研修自体は特に面白味があるイベントではないので横島も初耳である美砂達やあやか達も大人しいが、何の琴線に触れたのか一人テンションが高いハルナはどこぞの異世界の物語のテンプレのような展開を語り一人盛り上がる。


「いや、ケンカが苦手なのは本当なんだけど。」

そのままハルナは魔法協会の問題を力で解決しながら横島と自分達は裏社会でのしあがって行くんだと高らかに叫ぶが、横島は周囲からの見られ方と違い本質は臆病な小市民なのでそんな展開は本心からごめんであった。

刀子なんかは突然何を言い出すんだと少しビックリしているものの、いつものごとく周りの友人達にハイハイわかりましたからとぞんざいに扱われ静かにさせられる。

ある意味近右衛門が一番望まぬ展開であるが、正直そこまで馬鹿な人は居ないだろうと誰もが思う。

まあクリスマスパーティの時の例もあるので注意は必要だがハルナの妄想には木乃香達も付き合う気はないらしい。


「万が一そんな展開になったとしても、誰も止めてくれない時点で魔法協会なんて関わらない方が良くない？」

「そうね。 私もそんな魔法協会なら協力しないわ。」

ちなみに美砂や千鶴なんかはもし仮にハルナが言うような魔法使いが居ても、誰か周りが止めるだろうと冷静に突っ込む。

ハルナが何を妄想して語ってるのか周りは分からないようであり、所属する人員の管理も出来ない組織ならば関わりたくないと言うとみんなが頷いていた。


「そもそも横島君は結構な実力者だと噂になってるから、そこまで馬鹿にされないわよ。 魔法や実力を見せて欲しいとか弟子にして欲しい人は居るかもしれないけど、そこまでの礼儀知らずは居ないと思うわ。」

誰も相手にしないことでハルナは少し不満げに拗ねる中、刀子は魔法協会における横島の一般的な見方を話し大丈夫だと太鼓判を押す。

ただ肝心の横島はハルナの妄想に、ふと昔の自分ならば割とノリノリで乗ったのではと思うと若気の至りかなとしみじみと考え込む。

かつてまだ何の力もなかった頃にはそんな安直な妄想に浸っていたなど、流石に恥ずかしくて言えないらしい。


「残念ね。 美人にモテるのに……。」

「ん？ それは……。」

その後の流れで話は刀子による研修の説明に戻されるが、諦めきれないのかハルナが横島を誘うように自分の妄想というか計画に賛同すればモテるのにとわざとらしく囁くと横島の表情が微かに変わる。

やはりモテるという言葉には反応してしまう横島だが、周囲からの無言の圧力によりハルナと共に何も反応出来なくなってしまう。

ハルナとしては自分の野望プラス冗談半分に加えて、中途半端に関係が固まりつつある木乃香達への警告を込めた言葉であったが周囲の少女達からは冗談じゃないと割とリアルな抗議の圧力がハルナに集中していた。