二年目の春・2

明治期に創立された麻帆良学園と関東魔法協会に協力することで財を成した雪広家の庭園は、西洋式庭園としては日本屈指の歴史と規模を誇る。

基本的に一般には公開してないものの麻帆良祭の期間中だけは毎年庭園の一部を一般に公開しているし、麻帆良学園の建築科や芸術系学科の生徒は授業の一貫として見学に来ることもあった。


「庭の手入れ大変だろうな。」

そんな足元の芝生から草花や樹木に至るまできちんと管理されてる庭園は、見るものを自然と魅了し安らぎを与える。

ただ昨年から庭いじりを始めた横島なんかは、管理する苦労に思いを馳せてもいたが。


「おや、君はアスナちゃんか!? 大きくなったな!!」

観桜会の会場である中庭にはすでに十人ほどの招待客が来ていて、ちょうど見頃の桜を前に楽しげに談笑していた。

招待客の何人かは昨年のクリスマスパーティで横島と夕映が挨拶した人もいて横島達にも声をかけてくるが、意外にも招待客の人達が驚いたのは明日菜の姿にであった。


「ご無沙汰してます。」

彼らは雪広家の行事で過去に明日菜と何度か面識がある人達らしく、ここ数年姿を見せなかった明日菜の成長した姿に驚いてるようである。


「ちょっと前まであやかちゃんと走り回ってたのが、こんなに大人になるなんて。」

明日菜にとって数年は随分昔のような印象があったが、大人にとって数年はつい最近と言っても過言でない程度の期間でしかない。

元々やんちゃと言っても良かった明日菜のことを雪広に近い人達はよく覚えていたのだろう。


「木乃香ちゃんもお母さんに似てきたな。 昨年の料理大会見たよ。 凄いじゃないか。」

どうやら明日菜や木乃香を知る彼らは雪広家の親戚らしく、雪広グループの系列企業の社長や重役らしい。

正月の新年会は雪広家に親しい外部の人達が主に呼ばれたようだが、観桜会は親戚や雪広グループ内の人間などが主に多い内輪の行事のようである。

結果として明日菜に続き木乃香も顔見知りの人達が多いようで、共に成長した姿に昔を懐かしんでは昨年の料理大会の話などで盛り上がっていく。


「本当に見事なしだれ桜っすね。 樹齢二百年越えてるんじゃないかな?」

さて今日のメインである桜だが、雪広家の庭にあったのは見事なしだれ桜であった。

西洋式庭園に合わせるように植えられている桜は周りの景色とマッチしていて見事としか言いようがない。

加えて桜自体もなかなか見れないほど大きく、しだれ桜独特の綺麗なピンク色の花がまるで枝を垂れさせているように見えるほど咲き誇っている。


「ああ、そうらしいよ。 この桜はここに屋敷を建てる際に移植したらしいからね。 元はどっかの地主の家にあったらしい。」

横島も少女達もどちらかと言えば花より団子と言えるタイプだったが、あまりに素晴らしい桜には流石に言葉を失うほど見いってしまう。

招待客の一人が教えてくれた桜に関する逸話によると、事情があり斬り倒されそうだった桜を当時の雪広家当主が気に入りもらい受けた桜らしい。


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