二年目の春・2

「美味しそうやね。」

「うん!」

その頃一階の厨房では横島が木乃香とタマモと一緒に大きめのザルに山盛りのいちごでジャムを作ろうとしていた。

横島の店では開店当初から手作りのジャムが人気で、特に焼きたてのトーストにたっぷりと乗せて食べると幸せを実感すると評判でもある。


「形は不揃いだけど安くて美味しいぞ。 雪広グループさまさまだな。」

この日のいちごはいつもと同じく雪広グループから仕入れているが、形が不揃いで中には少し傷がある物なんかもあった。

実は今回のいちごは雪広グループ系列にて加工用として用いられる食材なのである。

ジャムは元より菓子に甘味などに幅広く使われるいちごだけに雪広グループでは提携農家で大量生産しているので、その分だけ加工用のいちごの値段もお得になっていた。

元々横島の店でもいちごは主にスイーツによく使うが、最近では店で使ういちごはほぼ雪広グループから仕入れた物になる。


「そう言えば今年もいちごスイーツの食べ放題やるん?」

「ああ、あれか。 あれも実はアジトからいちご持ってきたから出来たんだよなぁ。 しかも店の注目度も違うから今年もやるとすれば少し値段は考えんと。」

大量にあるせいか甘いいちごの匂いがあまりにも美味しそうなので横島は木乃香とタマモと一緒に味見と称してそのまま味わうが、木乃香はふと去年の春に横島が突然やったいちごのスイーツの食べ放題について思い出す。

タマモが自分の知らない話になになにと興味津々な様子で尋ねるので去年のことを話して聞かせるついでにあの時の裏話も語るのだが、流石に去年と同じ値段とメニューでやるのは現状では少し無理があるのが現実だった。

あれは去年のゴールデンウィークに行ったことだが、そもそもあの時と今では横島の店の注目度が全く違う。

流石に今の横島の店で出所を明かせない異空間アジトの食材を大量に使うのは、不自然すぎて同業者や常連に要らぬ疑念を抱かれ兼ねない。

現状の横島の店の注目度を考慮すると、多少在庫を水増しするくらいならば構わないが基本的には普通に仕入れる必要があるのだ。


「ほんまに深く考えてへんかったんやね。」

横島がいい意味でも悪い意味でもいい加減なのは今更考えるまでもなく木乃香もよく理解しているが、改めて一つ一つ過去の話を聞くと本当にいい加減なのだとしみじみと感じる。


「いやだってあの頃は近所の人と近くの女子中高生くらいしかお客さん居なかったし、 元々なんとなく始めた店だしさ~。」

呆れた表情とまでは言わないが何とも言わない表情を浮かべる木乃香に横島は少し焦ったように言い訳をするも、木乃香はそれが言い訳だとしか感じないのが本音だ。

ただ木乃香自身もそんな横島と一年一緒にいて決して嫌いでも不快でもないだけに、最終的には困った人だと思いつつも笑って許せてしまう。

そして一緒に居ても心の何処かで突然居なくなりそうな不安やもどかしさがあったあの頃の気持ちを思い出すと、今はそれがなくなって毎日が楽しいことが何よりの幸せだとも感じる。

結局このままずっとこうして笑っていたいと密かに願いつつ、一緒にジャム作りをしていくことになる。




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