二年目の春・2

この頃、魔法世界の辺境に土偶羅が造った拠点の一つである運送会社では現役や元職含めた傭兵などの人材を雇用して会社の規模を拡大していた。

会社設立してまだ一年未満ながら周辺地域どころかメガロメセンブリアやヘラス帝国にも僅かながら注目されているこの運送会社であるが、人が集まると良からぬ連中も集まるのが世の常である。

元々辺境の中の辺境で二十年前の戦争の余波で出来た新しい町だっただけに、自然や魔獣が脅威ではあっても人が脅威になることはあまりなかった地域だった。

それが周辺地域の物流の拠点が出来れば人が増えて町が繁栄する一方で、力にモノを言わせて好き勝手しようとする者や人を騙そうとする者など集まって来てしまう。

町の方でも人口の増加に合わせる形で元々あった警備隊を大幅に増強したりとしてはいるものの、魔法という個の力の差が大きい影響もあり魔法世界の辺境では弱肉強食なのが実情で自分の身は自分で守るのが当然でもある。

必然的に運送会社でも傭兵を雇い運送会社のみならず周辺の治安維持にも心砕かねばならなかった。


「おい、あれ傭兵結社の黒い猟犬だぜ!」

「なんで連中こんなとこに居るんだ?」

そんな辺境の町には、この日魔法世界でも有名な傭兵結社である黒い猟犬と呼ばれる者達がやって来ていた。

主に賞金稼ぎとして有名な黒い猟犬であるが、組織の規模が大きく企業や個人の警護なんかも行ってもいる。

今回彼らは土偶羅の分体の経営する運送会社との契約により運送会社のある地域に潜伏する賞金首の掃討に来ていたのだ。

ここ数ヵ月で急速に発展した町は人の出入りが激しく賞金首のような連中には格好の潜伏場所となっていて、土偶羅が密かに調査した限りでは小者も合わせると数十単位で賞金首やそれに近い連中が近隣地域に居る。

運送会社でも現役や元職の傭兵を警備員として雇用しているものの、実力的にはそれほど高くもないので高額な賞金首のような連中は黒い猟犬のような人達に頼んで何とかしてもらうしかない。


「最近この辺りも物騒になってきたからな。」

「便利になると人が増えて物騒になるが、だからと言って昔みたいに不便さを我慢したところで安全って訳でもないしな。」

その筋では有名な黒い猟犬の姿に、町では姿を隠す者や顔を背ける者などが多かった。

元からの住民はここ数ヵ月で便利になった恩恵も受けたが昔と比べて物騒になった現状に些か複雑な心境のようである。

ただ単純に人が増えたから物騒になった訳ではなく、元々魔法世界の辺境は魔獣が居たりするし賞金首や盗賊なんかも居るので必ずしも平和で安全な訳ではない。


「やあ、君達。 俺は傭兵結社黒い猟犬の賞金稼ぎ部門第十七部隊隊長アレクサンドル・ザイツェフ。 何か有益な情報があれば謝礼は弾むぞ。」

「有益なって……、物騒な連中は夜になると酒場に普通に出入りしてるぞ。 確か賞金首も居たような。」

「前に自慢してたからな。」

なお今回辺境の町に来たのは、なんの因果か本来の歴史でのどかを追い詰めるはずのチコ☆タンという恥ずかしい本名を持つ人物に率いられた傭兵達である。

彼らは賞金首とおっぱいを求めてこの町で活躍することになる。


34/100ページ
スキ