二年目の春・2

その後お昼が近くなると祭り会場は益々混雑していき、麻帆良亭の屋台ばかりではなく周囲の屋台も行列が出来るほど混雑している。

ただやはり客の回転率がいいとは言えない洋食の屋台はどうしても他より行列が長くなりがちだった。


「うむ……。」

そんな屋台であるがいつもと違う環境と設備での調理に、坂本夫妻の夫はいつ以来かと感じるほどの緊張感の中で調理していた。

慣れ親しんだ厨房から出ての調理は新鮮であると同時にいつもと勝手が違う。

幸いなのは最近は自宅で料理をする機会が何度かあり、厨房以外で妻や息子に孫達にと料理を振る舞った経験があることだろう。

店を閉めて引退してから新たな経験をするのは少し皮肉に感じなくもないが、終わった事を悔やむよりは今この瞬間に全力を尽くそうと気持ちを切り替える。

かつての麻帆良亭のように騒ぎ楽しげな学生達の声を聞きながら。


「いや~、美味そうだな。」

そして横島はといえば相変わらずタマモの様子を気にしつつもいつもと変わらぬペースで調理をしていた。

まだ未熟な部分がある木乃香とのどかのフォローも当然ながらしつつ自身もメインの調理を行っている。

現状で一番余裕があるのはやはり横島であり、自分で調理した料理を美味そうだと自画自賛する余裕すらあった。

元々いい意味でも悪い意味でも軽い横島はどうしても見た目には真剣味が見えないのが欠点になる。

ただ坂本夫妻はすでにそんな横島に慣れてるからか特に気にしてないが。


「はいな、ハンバーグお待たせや。」

次に木乃香だが外にいる男子学生達に噂をされてることなど知らずに楽しげに調理していた。

木乃香は横島や坂本夫妻の夫や藤井の助手のようにメインの調理から付け合わせの盛り付けなんかまで幅広く活躍している。

主にメインの調理をしているが状況を見てのどかの調理補助も手伝っていて状況を見ながら臨機応変に動いていた。

横島がフォローしてるとはいえ端から見ればびっくりするほど有能な働きをしていて、屋台ということもあり調理風景を見ていた一部の業界人にその力量を密かに認められることになる。

元々年齢が若いことから即席培養のように料理修行をしたのではとの疑問も持たれていたので、地道に調理補助なんかをする姿が逆に評価される原因だった。


「えっと、キャベツもそろそろ切らないと。」

「それなら私が取ってくるわ。」

次にこちらは完全に調理補助に専念するのどかであるが、彼女の存在が地味に全体のスピードに影響するほど重要になっている。

一応主催サークルの側からも何人か手伝いの人が来ていて雑用や調理補助などとして働いているが、細かな調理補助は麻帆良亭を知る者にしか出来なく坂本夫妻か横島が指示をしない限りはのどかが独自に判断していた。

結果として中学生であるのどかが大学生を使うような立場になってしまい元々人見知りをして大人しい性格ののどかは恐縮というか困っていたが、そこは大学生の方が大人でありそんなのどかの気持ちを察して自主的に動いている。

まあ夕映と同様にのどかも大学部では秀才少女として結構知られているので、中学生だからと甘くみられたりすることはほとんどない。

のどか本人は相変わらず先輩に恐縮してはいたが。





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