二年目の春・2

「火力は問題ないか。」

坂本夫妻と横島達が準備を始めると屋台の前には早くも並ぶ人が出てきていた。

ここ最近の麻帆良亭の復活を知る者ならば当然並ぶのを知っているので早く来て並ぶ者も居るし、よく言うように行列が人を呼ぶように並ぶ人もいる。

そんな中で準備や確認に余念がないのは坂本夫妻の夫の方だった。

それと言うのも横島達や藤井は過去に麻帆良祭などで野外などの本格的な厨房以外での調理経験があるが、意外なことに彼は店の厨房以外での調理経験がほとんどないからだ。

しかも野外で自分の料理を振る舞う経験も当然ないので新鮮な気持ちと緊張感の中で準備をしている。


「まるで学生時代に戻ったようね。」

一方の妻の方は屋台の中で準備をする木乃香達や外で行列の整理などをしている大学生達を見ていると、ふと自分にもそんな頃があったなと思い出していた。

彼女が学生の頃は今ほどイベントや祭りが多くなかったし規模も比べ物にならないほど小さい祭りだったが、娯楽らしい娯楽が少なかっただけに大人も子供もみんな楽しみにしていた時代である。

決して裕福な時代ではなかったが未来に希望を抱いていたあの頃が本当に懐かしく感じるらしい。


「いらっしゃいませ。」

さて屋台の開店は周りの屋台と同じ午前九時であった。

調理は坂本夫妻の夫と藤井に横島・木乃香・のどかの五人で販売は坂本夫妻の妻と明日菜と夕映とさよの四人になる。

ちなみにタマモは雑用と宣伝担当になっていて、先程から店の前で主催サークルの人達と開店を知らせる呼び込みをしていた。


「屋台の洋食なんて初めてだ。」

「あっちは奨学金の募金か。 俺も貰ってるんだよな。」

開店前から並ぶ行列のおかげで注目度も抜群な麻帆良亭の屋台は開店早々から付近を歩く人の注目を集めていて、屋台の隣にある麻帆良学園奨学金基金の広報ブースも小さいながら注目を集めている。

今回収益を奨学金基金に寄付することにした関係から、奨学金基金の側でも広報活動の一貫として広報ブースを設置していた。

過去数年の奨学金受給者の数や寄付された金額に、奨学金を受けて卒業した者のその後などを写真と文章で掲示していて募金箱も置かれている。


「お前奨学金なんて貰ってたのか?」

「そりゃ学費も安くはないからな。」

そして麻帆良亭の屋台と奨学金の広報ブースの前では並ぶ行列の長さに並ぼうか悩んでいる数人の学生達が居た。

伝統ある洋食屋の料理を食べれるということで早めに来たようだが、すでに並ぶ行列を前にどうしようかと迷い始めていたらしい。

だが迷ってるうちに行列が長くなり結局は並ぶことにするものの、今回麻帆良亭の収益が奨学金基金に寄付されるとのポスターを見た一人は少し感慨深げに自分も奨学金を貰っていると発言する。


「学費が高いのは麻帆良学園の数少ない欠点だよなぁ。」

私立なんてどこも似たようなものではあるが、麻帆良学園の学生で一番不満があるのは学費などの在学中にかかるお金であった。

そういう意味では奨学金は高校生や大学生などでは受給している者は意外に多かったりする。



23/100ページ
スキ