二年目の春・2

同じ日、雪広コンツェルン本社では麻帆良総合研究所の開所式が行われていた。

麻帆良総合研究所こと麻帆良総研は正式には雪広グループとは直接的な資本関係はなく雪広家や那波家が個人で運営する研究所ということになっているが、研究所としての正式な施設はまだ建築すら始まってない段階であり一時的に雪広コンツェルン本社を間借りする形での開所式となっている。

どのみち現段階では人員も雪広グループや那波グループに学園からの出向で集めた者達であるので間借りした事務所で十分だった。

まあ技術研究などに関しては同じく学園の大学部の研究棟の一部を借りることになっているので、本当に何から何まで借り物でのスタートになる。


「初めまして、鈴木小十郎です。 いろいろ至らぬ点があるかとは思いますがよろしくお願いいたします。」

この麻帆良総研は以前にも説明した通りトップには雪広清十郎が就任するが、研究所の副所長は那波千鶴子の古い友人だと紹介された鈴木小十郎という人物が勤めることになった。

すでに気付いているかもしれないが、この鈴木小十郎とは土偶羅の新しい分体である。

容姿は五十代くらいで人の良さそうな印象を与える人物であるが、元々は半年ほど前から海外での情報収集活動にと使っていた分体だ。

所長は武藤といい雪広グループの元社員で系列会社の社長も勤めた魔法関係者になる。

現在六十八才とすでに引退してのんびりと余生を過ごしていたが、清十郎の信頼が厚い人物でありいろいろ秘密が増えるだろう麻帆良総研の所長にと頼み込んで現役復帰してもらった人物だった。

基本的に組織内の実務は土偶羅の分体である鈴木小十郎が行い、武藤所長は雪広や那波などの企業や学園側との交渉やなど対外的な仕事を行うことになる。


「会長から聞いてるよ。 細かいことは任せるからよろしく頼む。 私は各方面との調整をするから。」

武藤所長は麻帆良学園の卒業生で雪広グループに入社した生粋の麻帆良人であった。

当然魔法協会にも所属していてかつては雪広グループ内の魔法協会員の取り纏めもしているし、現在も引退した魔法協会員の集まりであるOB会の一員でもある。

名目上は清十郎や千鶴子が個人で設立した組織ではあるが、今後は関係各所との信頼関係構築が必要になることは当然なので武藤所長はその為に呼ばれていた。

見方によっては雪広グループの幹部の天下りにも見えるが、本人は楽隠居していて決して再就職を望んだ訳ではない。


「お任せを。 当面のスケジュールと方針についてですが。」

ささやかな開所式が終わると二人は挨拶もそこそこにさっそく今後のスケジュールや方針などを話し合っていく。


「随分と急いでるな。 魔法世界が最近キナ臭いからか?」

「それもありますが、会長達は魔法協会の将来自体にも不安も抱いてるようでして。」

「メガロメセンブリアが本気になれば独立は保てないか。」

武藤所長にも事前にある程度の情報は渡していたが、当然ながら横島絡みの秘密は明かしてない。

ただ秘密結社完全なる世界の健在が明らかになって以降、魔法世界の動きがキナ臭いのは少し頭の回る人物なら気付くことだった。

狙われたのが同じ日本の関西だということもあり、真実を知らない人間からすれば関西のみならず関東でも完全なる世界の動きはメガロメセンブリアと関係あるのではと疑う者が多い。

特に近右衛門の後の日本の魔法協会がどうなるかは東西問わず魔法関係者の不安材料の一つになる。

一般的には次世代の為の私的研究機関だと説明している麻帆良総研であるが、魔法関係者には魔法協会の将来を含めた多角的な研究機関だということにしていた。


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