二年目の春・2
「随分変わったわね。」
その後坂本夫妻の妻は夕映と一緒にパン屋に向かうが、そこはかつてあった昔ながらのパン屋だった店構えが今風の少し高級感があるおしゃれなパン屋に変わっている。
店の看板や店内のインテリアなどを変えたようで、新装オープンの花輪などがまだ飾られていた。
「息子さんが店を改装したらしいです。 何でも先代のやり方は古くてダメだと、これからは自分のやりたいようにやると言って揉めてたようですから。」
馴染みの店の変わった姿に坂本夫妻の妻は何とも言えない表情を僅かに浮かべるが、夕映はパン屋の改装とそれに関わるパン屋の世代交代のゴタゴタを噂話として知ってるらしく説明していく。
夕映自身はパン屋の先代の大山夫妻は顔見知り程度の相手だが、横島の店の常連には親しい人が居るらしくパン屋一家の世代交代に纏わる話を以前聞いていたのだ。
「そう……。 息子に店を継がせるのも大変なのね。」
店自体はまだ改装オープンしたばかりらしくそれなりにお客さんが入っていて、店構えが変わった影響からか若い学生も結構多い。
馴染みの店が流行っている様子は嬉しくも感じるようだが、一方で古いからと過去を否定するように変わりゆく姿は坂本夫妻の妻にとっては見ていて寂しいものがあるのだろう。
「忙しい時にごめんなさいね。 明日の予約のパンのことなんだけど、以前までと違う物だったから。」
そのままパン屋に入った坂本夫妻の妻と夕映は店員として働いていた若い女性に頼み、前店主である大山夫妻の息子である現店主の男性に取り次いでもらいさっそく用件を伝えた。
男性は三十代前半で一見すると取り立てて特徴はない容姿だが少し神経質にも見える人物である。
「そうですか。 申し訳ありません。」
年齢の関係もあり夕映が無言で見守る中で坂本夫妻の妻は低姿勢で本当に申し訳なさげに話をしていく。
ただ申し訳なさげにしてはいても用件は苦情であることに変わりなく、店主の男性は表情を変えぬままに頭を下げて謝っていた。
「別に貴方のパンが美味しくない訳じゃないのよ。 ただうちの店で出すパンとは違うというだけで。 主人の料理にはどうしても以前までと同じ物が欲しいの。」
相手は坂本夫妻の息子と同年代であり妻にとっては息子のような年齢の男性にかなり気を使っていて、若い職人の未来を潰さぬようにと配慮している。
前店主である大山夫妻は友人でもあり長い付き合いがあっただけに、全くの他人やただの取引先とは訳が違う。
「明日は父に頼んで作ってもらうので心配しないで下さい。」
そんな坂本夫妻の妻の配慮を知ってか知らずか店主の男性は前店主の父親に明日は作ってもらうと告げて問題はないと口にはするが、あまり自分の気持ちや考えを表に出すタイプではないらしく正直何を考えてるか読めない相手だ。
「いいの? 本当は今日試作してもらったパンを作るつもりだったんでしょう?」
「……正直今回が初めてではないんですよ。 以前からのお得意様は私のパンではダメだと苦情が来まして何人かはすでに離れてます。 みんな私のパンは美味しいが以前の方がいいと。」
坂本夫妻の妻と店主はあまり話をしたことはなかったが、顔を見れば挨拶はする程度に付き合いはある。
まして麻帆良亭のおかみさんとして多くの弟子や学生を相手にして来た坂本夫妻の妻にとって、目の前の不器用そうな男性の気持ちを聞き出すのも簡単なようであった。
世間話程度の雑談を交えつつ少しずつ男性の本音を聞き出していた。
その後坂本夫妻の妻は夕映と一緒にパン屋に向かうが、そこはかつてあった昔ながらのパン屋だった店構えが今風の少し高級感があるおしゃれなパン屋に変わっている。
店の看板や店内のインテリアなどを変えたようで、新装オープンの花輪などがまだ飾られていた。
「息子さんが店を改装したらしいです。 何でも先代のやり方は古くてダメだと、これからは自分のやりたいようにやると言って揉めてたようですから。」
馴染みの店の変わった姿に坂本夫妻の妻は何とも言えない表情を僅かに浮かべるが、夕映はパン屋の改装とそれに関わるパン屋の世代交代のゴタゴタを噂話として知ってるらしく説明していく。
夕映自身はパン屋の先代の大山夫妻は顔見知り程度の相手だが、横島の店の常連には親しい人が居るらしくパン屋一家の世代交代に纏わる話を以前聞いていたのだ。
「そう……。 息子に店を継がせるのも大変なのね。」
店自体はまだ改装オープンしたばかりらしくそれなりにお客さんが入っていて、店構えが変わった影響からか若い学生も結構多い。
馴染みの店が流行っている様子は嬉しくも感じるようだが、一方で古いからと過去を否定するように変わりゆく姿は坂本夫妻の妻にとっては見ていて寂しいものがあるのだろう。
「忙しい時にごめんなさいね。 明日の予約のパンのことなんだけど、以前までと違う物だったから。」
そのままパン屋に入った坂本夫妻の妻と夕映は店員として働いていた若い女性に頼み、前店主である大山夫妻の息子である現店主の男性に取り次いでもらいさっそく用件を伝えた。
男性は三十代前半で一見すると取り立てて特徴はない容姿だが少し神経質にも見える人物である。
「そうですか。 申し訳ありません。」
年齢の関係もあり夕映が無言で見守る中で坂本夫妻の妻は低姿勢で本当に申し訳なさげに話をしていく。
ただ申し訳なさげにしてはいても用件は苦情であることに変わりなく、店主の男性は表情を変えぬままに頭を下げて謝っていた。
「別に貴方のパンが美味しくない訳じゃないのよ。 ただうちの店で出すパンとは違うというだけで。 主人の料理にはどうしても以前までと同じ物が欲しいの。」
相手は坂本夫妻の息子と同年代であり妻にとっては息子のような年齢の男性にかなり気を使っていて、若い職人の未来を潰さぬようにと配慮している。
前店主である大山夫妻は友人でもあり長い付き合いがあっただけに、全くの他人やただの取引先とは訳が違う。
「明日は父に頼んで作ってもらうので心配しないで下さい。」
そんな坂本夫妻の妻の配慮を知ってか知らずか店主の男性は前店主の父親に明日は作ってもらうと告げて問題はないと口にはするが、あまり自分の気持ちや考えを表に出すタイプではないらしく正直何を考えてるか読めない相手だ。
「いいの? 本当は今日試作してもらったパンを作るつもりだったんでしょう?」
「……正直今回が初めてではないんですよ。 以前からのお得意様は私のパンではダメだと苦情が来まして何人かはすでに離れてます。 みんな私のパンは美味しいが以前の方がいいと。」
坂本夫妻の妻と店主はあまり話をしたことはなかったが、顔を見れば挨拶はする程度に付き合いはある。
まして麻帆良亭のおかみさんとして多くの弟子や学生を相手にして来た坂本夫妻の妻にとって、目の前の不器用そうな男性の気持ちを聞き出すのも簡単なようであった。
世間話程度の雑談を交えつつ少しずつ男性の本音を聞き出していた。