二年目の春・2

それから数日が過ぎると暦も変わり四月になっていた。

桜もようやく本格的に咲き始め横島達はいつ花見に行こうかと話している今日この頃であるが、連日の麻帆良亭の仕込みは忙しい日々が続いている。

ちなみに麻帆良亭の限定復活イベントは一日限定ながら計千食分の料理を提供する予定だった。

主催は麻帆良学園食文化研究会というサークルであり、雪広グループとマホラカフェの全面協力によるボランティアとして売り上げは全て麻帆良学園奨学金基金に寄付されることになると宣伝している。

なおマホラカフェの全面協力に関しては横島はわざわざ表示しなくてもいいと言っていたのだが、横島以外の関係者の話し合いにより表示されていた。

これに関しては横島は宣伝する必要がないので別に要らんだろうと適当に言うものの、関与の度合いを見れば必要だという意見で他は纏まっている。


「坂本さん、パンについてですが……。」

そんなこの日はイベント前日であり料理の仕込みは当然ながら明日のイベントの確認などで少女達は忙しく働いていた。

千食分の料理を作るのは麻帆良亭でも前代未聞のことであり、メインの料理も当然ながらパンやご飯などの主食や飲み物など一つ一つ確認していかねばならない。


「これはどういうことだ?」

「元々パンを作っていた大山さんが最近になり本当に引退したようです。 少し気になったので試しにと今日少し焼いてもらったのですが……。」

ただ全てがスムーズに進む訳ではなく問題も幾つか出てきてしまう。

取り分けこの日問題になったのは麻帆良亭で特注していたパンを頼んでいたパン屋が最近世代交代した結果、以前と味や質感が微妙に変わってしまったことだった。

解りやすく味が落ちたとまでは言えないが、パンの質感や風味が微妙に変わっていて味が落ちたと言えなくもない。


「大山さん引退するって言ってたものね……。」

実はパン屋の老夫婦が引退する話は一月の限定復活の時に聞いたが、跡継ぎの息子が上手く引き継げずに本来は二月末で引退する予定が三月末まで伸ばしていたらしい。

横島の店でも同じパン屋からパンを仕入れているが、正直三月に入ってからは微妙に味が変わったりして今後どうしようかと考えている最中である。

三月いっぱいで本当に引退すると聞いていた夕映が今回のイベントの仕入れを心配して、この日試しにと麻帆良亭のパンを焼いてもらったようだが坂本夫妻はその出来に渋い表情を浮かべた。


「良かったら俺がパン焼きましょうか? 今夜中に焼けば間に合いますよね?」

パン屋の名誉の為に言うと決して不味い訳ではなく、一般的なパン屋と比べても遜色ないレベルだが麻帆良亭の味としては違うというか問題がある。

坂本夫妻としては長年付き合いがある相手なだけにしばしどうするか悩むが、それを見た横島が多少遠慮がちに自分がパンを焼こうかと言い出す。


「横島君はやるべき仕事が多いだろう。 さすがに徹夜させるのはな。」

これが常設の店ならばまた違ったのだろうが、坂本夫妻が麻帆良亭を営業するのは明日を含めて多くて月一でしかないのだ。

世代交代したパン屋とどう付き合うかも考えねばならないが、とらりあえずは明日のイベントをどうするか考えねばならない。

横島がパンを焼くのが割と手っ取り早いが、横島自身も明日のイベントへの仕込みで十分忙しいのが現状だ。

加えて横島はここ数日は特注の茶道部からの和菓子の注文もこなしているのであまり余裕がない。


「私が大山さんのとこに行ってみるわ。 息子さんとはあまり話したことないけど。」

最悪の場合は雪広グループに頼みどこかで急遽注文をするしかないと話が進むが、その前に坂本夫妻の妻がパン屋に行き直接大山の息子と話してみることにする。


17/100ページ
スキ