二年目の春・2

「近衛木乃香、勝負だ!!」

大学部の卒業式が終わると桜の開花まで秒読みと迫っていたこの日、女子中等部では終業式を迎えていた。

いよいよ二年も終わりだとほんの少し感情に浸る木乃香であったが、それはそれとして学校が終わるといつものように横島の店に来ていた。

終業式当日ということもありこの日の店は女子中高生で賑わっていたが、高等部の制服を着た男子が店に入るなりなんの前触れもなく大声で木乃香に勝負を挑むと常連の女子中高生達の呆れたような視線がその男子に集まる。


「ごめんなさい、ウチそういうのお断りしてるんです。」

昨年の体育祭での料理大会の優勝以来、時々こんな迷惑な人が木乃香の元にやって来ることがあった。

これはある意味麻帆良学園の伝統の一つでもあり有名なのは古菲と格闘系サークルの野良試合だが、料理という分野においても似たような習慣があるらしく身近な人だと超や五月なんかも時々勝負を挑まれるらしい。

ただ木乃香は争いを好む性格ではないので全て断っている。


「なっ……。」

「悪いんだけどそういうの認めてないんだよ。 勝負したきゃ超さんのとこでも行ってくれ。」

まさか断られると思ってなかったのか唖然とする男子に横島は迷惑そうに自分が認めてないからだと語るが、これは木乃香の為に対外的には師匠である横島が勝負などを禁止してるということにしていた。

超や五月に新堂なんかは結構この手の勝負には付き合うらしく、超包子の屋台では一時期超や五月に勝負を挑む料理人とのバトルが名物になったらしい。

なんとなくこの手の勝負を断ると空気が読めない人扱いをしたりする者も居てめんどくさいが、料理関係者には木乃香のように理由を付けて断る人もまた多い。


「春よね~。」

「クイーンや天才超鈴音には勝てなくても木乃香ちゃんならってのがみえみえよね。」

勝負を断られた男子はどうしていいか分からずに困惑しながらも最低限の礼儀は弁えてるようで素直に帰ったが、それを見ていた常連の女子中高生達は先程の男子を小馬鹿にしたように笑っていた。

正直同じ中学生くらいの人ならばまだ分かるが高等部のしかも男子が木乃香に勝負を挑むなんて、だいたいが木乃香ならば勝てるとの低俗な考えがある者が多い。

一言で言えば売名目的であり、超や五月も一昨年の体育祭で活躍した後には多かったらしい。

超なんかは逆にそれを宣伝としていたが。


「不思議と実力ある人来ないもんね。」

「本当に勝てる人はそんなみっともないことしないでしょ?」

すっかり女子中高生のネタにされてる先程の男子であるが、実際に木乃香に勝てるような人が勝負を挑んで来たことがないのは横島が以前に言っていたことだ。

そもそも中学生の木乃香相手に勝負を挑む時点でたいした実力がないと認めてるようなモノであり、何人かの実力あるパティシエが店に来たことはあるが彼らは木乃香と話しはするが勝負だなどと言い出したことはない。

横島の店では常連の豪徳寺に勝負を挑む者も時々来るが、そちらはまだ強者に勝負を挑む挑戦者だと評価されるものの、木乃香に勝負を挑む者はろくな人じゃないと話の種にされていた。


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