二年目の春

「準備は出来たか?」

「うん! できたよ!!」

この日横島の店では都合により十七時に閉店しますとの貼り紙が貼られていた。

坂本夫妻もこの日は夕方の前に帰っていて手早く閉店作業をした横島が二階に上がるとお出掛けの準備を万端にしたタマモとさよとハニワ兵が待っていた。


「じゃあ行くか。 みんなを待たせると悪いしな。」

時刻はもうすぐ六時になる頃で約束の時間までギリギリだなと感じた横島はタマモ達を連れて足早に家を出る。

実はこの日は三月十八日であり木乃香の誕生日だった。

去年の夕映の誕生日以降は横島の店で身近な人の誕生日をお祝いしてきた横島達であるが、今回の木乃香の誕生日は少し趣向を変えて近衛邸での誕生日パーティーをすることにしたのだ。

すでに木乃香達を初めとしたいつものメンバーは一足先に近衛邸に向かっていて恐らく横島達が最後だろう。

タマモは木乃香への誕生日プレゼントを自分で抱えており、待ちきれないと言った表情で歩いていく。



「何はともあれ東西協力が無事始まって本当によかったです。」

「うむ、ここまで来るのに長かったからのう。」

一方この日の近衛邸には土偶羅本体による瞬間移動にて、木乃香の両親である詠春と穂乃香が娘の誕生日を一緒に祝う為に密かに昼から来ていた。

今回木乃香の誕生日を祝うパーティーを横島の店ではなく近衛邸で行うことにした理由が、誰にも知られることなく木乃香の両親を麻帆良に呼ぶためだったのだ。

現代では新幹線や飛行機で日帰り出来るとはいえ東西の協力が始まったばかりのこの頃に夫婦揃って麻帆良に来るのは少しばかり大変なため、詠春は兄など極々少数の身内にだけ根回しして麻帆良に来ている。

本来ならば娘の誕生日くらい堂々と来たいのだが、関西には関東の風下に立つことに無駄に神経質になる者も多くはないが存在した。

元々今回の誕生パーティーはタマモが張り切っていて木乃香の両親を呼びたいと言い出した事が始まりで横島が近右衛門や詠春達と相談した結果、うるさい連中には秘密にして来ることになっていた。

結果として穂乃香と詠春は昼から誕生パーティーの料理を作ったりとしていたが、先程近右衛門が帰って来てからはついでという訳ではないが始まったばかりの東西協力について話し合いもしている。


「こちらは一部に反発する者も居るので、まだ不安ですが。」

「みんながみんな納得することは難しいからのう。」

娘の誕生パーティーの前に随分気が滅入る話ではあるが、せっかく始まった東西協力に批判的な者が関西には少数だが存在した為、下手に問題を起こして東西協力を潰される前に対策は必要であった。

詠春は批判的な者も同じ呪術協会の仲間なので可能な限り説得なり抑えるなりしたいようだが、中には世の中の状況が全く見えない者も居ない訳ではないらしい。

処分や切り捨てるのは簡単だが下手に処分するとそんなどうしようもない者を野に放つことにもなりかねず対応に苦慮している。

関東の場合は魔法協会から追放されたらほとんどが居心地の悪さに魔法世界へ行ったり東京に行ったりして麻帆良から出ていくのでまだマシだが、関西の場合は世の中を知らないという場合はそのまま関西に残る可能性が高いため対処が難しいという事情もあった。



96/100ページ
スキ