二年目の春

翌日は女子中等部の卒業式当日であった。

木乃香達など身内は二年なので直接関係はないが、店の常連には当然卒業する少女もいる。

ここ最近は卒業パーティなんかの予約もそれなりに入っていて、この日も数人の友人同士での卒業パーティの予約が入っていた。


「卒業か。」

そんなこの日は午前中からエヴァとチャチャゼロが店に来ていて、店内に流れる卒業ソングを聞きなんとも言えない表情を浮かべる。

登校地獄というふざけた呪いのせいで十年近くの間、中等部に通わされ続けたエヴァにとって卒業式は苛立ちや苦しみの対象であった。

人にも魔法使いにも受け入れられない自分が全ての力を封じられて終わりのない牢獄に閉じ込められたような、そんな印象しかない十年だった。


「なんだ卒業したいのか?」

なんとなくエヴァが呟いた一言を聞いた横島は、何を勘違いしたのかエヴァも学校を卒業したかったのかと変な誤解をしてしまう。


「そんな訳あるか! そもそも私は成長しないのだ。 卒業して何の意味がある?」

「成長って、そういやしないんだっけ?」

「好き好んでずっとこのままでいる訳ないだろうが。」

「なんだ、成長したいのか? それならそうと言ってくれれば良かったのに。」

相変わらずどっか抜けてる横島はエヴァが学校に多少なりとも未練があるのかと思ったようだが、話題はエヴァの成長しない肉体の話に変わる。

横島はエヴァが成長しない肉体に悩んでるとは思わなかったようで驚くが、成長したいならしたいと言ってくれたら良かったと言うとエヴァとチャチャゼロの表情が固まった。


「まさか……出来るのか?」

「うん、割と簡単に。」

別にエヴァは単純に大人になりたい訳ではないが、子供の姿で数百年苦労したことを思うとせめて大人の姿でありたいとは思う。

まともな恋愛も出来なければ惚れた男の子供も産めないのは、一人の女として嬉しいはずがない。

そんな苦しみと葛藤の記憶を抑えるように恐る恐る横島に確認するエヴァであるが、アシュタロスの技術を受け継ぐ横島にとっては実はそんなに難しいことではないのであっさりとした態度で答えを告げていた。


「貴様という男は……。」

目の前の男の非常識さをエヴァは十分理解していたはずであるが、ただそれでもこうもあからさまに見せつけられると本当になんと言っていいか分からなくなる。

限りなく万能に近い力がある癖に微妙な女心を理解してない辺り、端から見るとわざとやってるのかと疑いたくなるが自分がそれをやられると目の前の男の本質は馬鹿なのかもしれないと疲れたように思う。


「やるなら先に魂と肉体の状態を調べてからだな。 まあそのうち向こうに行った時にでもしてやるよ。」

本当に複雑そうなエヴァの様子に横島は近いうちにエヴァを成長させるようにすると約束していた。

そもそも吸血鬼も普通は大人までは成長するので、エヴァが成長しない理由は後天的なものだろうと横島は見ている。

あえて言わないが横島にはエヴァを人間に戻すことも可能だった。

吸血鬼のままで成長させるくらいはリスクもなく朝飯前なのだろう。

結局この日エヴァはそれ以上この件に関して口を開くことはなく終わり、自身の未来について改めて考えることになる。



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