二年目の春

「本当は準備期間に半年はほしいんじゃがな。」

この夜近右衛門は雪広清十郎と那波千鶴子に芦優太郎を加えた四人で極秘の会合を開いていた。

議題は技術研究部門の拡充についてであり、本来は半年から一年は準備期間が欲しいものをこの春から始動させるとなるといろいろと準備が大変だった。


「組織のトップはワシがするしかなかろう。 人員は寄せ集めか。」

土偶羅がこの提案をしたのが二月初旬のため、実質的に二ヶ月以内での組織の立ち上げはかなり無理をしている。

資金はまだいいが魔法に関わる技術研究を目的とする為には人材の確保から始まり機密保持の為の施設など必要な物は山ほどあった。

組織の形態は最終的に独立組織として名目上は雪広家と那波家よる私的な研究機関として発足することにしていて、トップには清十郎が就任する予定である。

出資に関しては両家の他に近衛家と青山家も少額だが出資予定であり、横島側からは芦優太郎名義で出資予定だった。

まあ出資負担が大きい雪広那波の両家には土偶羅から未開発のレアメタル鉱山の情報が極秘に渡されていて、長期的に見ると負担が少なくなることになる。


「来年の新卒採用には時間がありませんわ。」

組織の立ち上げを急ぐ理由は、もちろん魔法世界の限界とそれに関わる魔法世界の情勢が最早一刻の猶予もならないことが大きい。

必要な人材も当初は魔法協会や雪広グループや那波グループから集めることになるが、可能ならば再来年度からは新卒を採用したかった。

優秀な人材を集めるには今年の就職活動が始まる前に組織を立ち上げてしまわなくてはならない。


「表向きは経済及び次世代技術の基礎研究といったところでよかろう。 実際に運営する人材にはしばらくはこちらからワシとは別の分体を出そう。」

組織の名前は麻帆良綜合研究所として理事長には雪広清十郎が就任し副理事長には那波千鶴子が就任することで決まり、実際に運営するのは土偶羅の新しい分体が当面行うことになる。

将来的には東西の魔法協会が統合したら合流することも視野には入れているが、情勢次第では独立組織として近衛家・雪広家・那波家の切り札にする選択肢も残していた。

魔法世界の崩壊が現実のものとなればメガロメセンブリアが地球側の国家と結んだ条約により補償されている現在の魔法協会が得ている高度な自治権が失われる可能性もあるので、最悪の場合には魔法協会という組織を捨ててこちらを新しい組織とすることも考慮されている。

現状で魔法協会から切り離したのは、そういった場合に魔法協会の財産が国家に取り上げられる可能性を考慮してだった。

それと異空間アジトのダミーとして現在開発中の無人惑星はこの麻帆良総研の成果という形にしようかとの案もある。

とりあえずこの麻帆良総研と無人惑星があれば魔法世界の崩壊だろうが、第三次世界大戦だろうがなんとか乗りきれるだろうということだ。

ただ当面は組織を整えることと技術者や研究者の育成が精一杯になるが。


「例の無人惑星に魔法世界人が移住出来るようになればいいんじゃが。」

「技術的には可能だ。 魔法世界を構成する魔法はすでに解析済みだからな。」

いろいろ物騒な予測の元に新組織は設立されるが、近右衛門の意見により今後は無人惑星は純粋な魔法世界人も移住出来るように準備を始めることになる。

現状では魔法世界への介入は危険過ぎて出来ないが、最悪の場合を想定すると魔法世界人を無人惑星に移住させた方が自分達にリスクが少なく魔法世界の人々を救えるのは明らかだった。

元々横島や土偶羅にとって無人惑星はたいした価値がないだけに近右衛門としても頼みやすいという本音もある。

ともかくこの日麻帆良総研の設立が正式に決定していた。



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