二年目の春

「思った以上に出来るな。」

「なんで自分が一番驚いてるのよ。」

この日の夜、横島は美砂達にせがまれて美砂が持ち込んだ楽器の一つであるギターを一階に運び弾いてみることにした。

ギターの物自体はアコースティックとエレキの初心者用の二本持ち込まれていて、横島はアコースティックギターを調律しながら軽く弾いてみるが過去の自分の記憶より格段に上手く弾けることに横島自身が一番驚き周りの少女達はそんな横島を不思議そうに見ている。


「いやギターなんて中学の時以来だしさ。 当時は普通の人間だったから素人に毛が生えた程度しか弾けなかったはずなんだが。」

何故経験もない楽器が弾けるのか横島は自分でも不思議らしく理由を考え始めるが、少なく見積もっても十五年は触ってもない楽器が自然と弾けてしまうのだから本人も不思議な感覚なのだろう。

ただこの辺りはやはり横島の基本的なスペックがすでに人間離れしているのが主な理由で、他には横島自身も意図してない経験や技術が自然と使えているだけである。


「昔はモテそうなことは何でもやったんだよなぁ。 ギターは高校に入学する時にボロアパートに独り暮らししなきゃならなくなって止めたけど。」

思った以上に簡単に弾けたことに楽しくなったのか、横島は少女達にとっては一昔前になる曲なんかを適当に弾き語りのように弾いていく。

中には知らない曲なんかもあったが知ってる曲もあり世界は違えど音楽は大差ないのだなと感じる。

つい懐かしくなったのか横島は中学時代に女にモテたくてギターを始めたことや、最初は父親に教えてもらったがその父親が妙に上手くて自慢や馬鹿にされた話なんかを語ってしまう。


「マスターのお父さんってさあ……。」

「親子とは似るものなんでしょうか?」

この時横島は話の流れで父親がモテまくって女癖が悪かったと羨ましげにというか苦々しげに語ると流石に少女達の中には嫌そうな表情をする者もいるが、何人かの冷静な少女達は客観的に見ると今の横島も似たようなものなのではという疑問が頭に浮かぶ。

加えて横島の過去の話は自己不信や誤解からくる勘違いも結構多いので精査が必要なのはみんな理解している。

ちなみに夕映やのどかが確認の為に母親との夫婦関係について聞くと至って良好で浮気してしばかれることはあっても仲はいいとの話から、少女達は横島の両親も規格外な可能性が高く一概に判断出来ないとの結論を出していた。


「どうせ俺はギター漫談でもしてる方が似合ってるよ。」

「そんなことないって。 結構イケテるよ。 マスター歌うまいし。」

その後過去の話をしたからか横島はまたコンプレックスをこじらせてしまい、少女達は顔にこそ出さないがまたかと思いつつをなだめていくことになる。

ある意味横島のコンプレックスは持病のようなものだと周りは思っていて、きっと一生治らないんじゃないかなとさえ思っていた。

このコンプレックスさえなければ本当にモテるのにと誰もが思うが、正直これ以上横島がモテても少女達には一切いいことがないのでそこを指摘する者は流石に居ないらしい。



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